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第19話

「うん。それに基本的にユキちゃんと会うのは外だから。お互いに、他人を部屋に入れるの嫌いなタイプだし」 友達だからといって、お互いの家を行き来するような付き合いをしていない俺と光。お互いの都合が合う時は今日のように会うこともあるが、そうでない時も多いのだけれど。 殺風景な室内を意味もなく彷徨いていた光は、何を思ったのか俺の目の前で足を止めた。 そして。 「ユキ、女関係で良いコトあったでしょ?」 星と同じ色の黒い瞳が、俺を捕らえていた。 両腕を後ろに回して僅かに首を傾げる光、昔から光は人のイヤなとこばかりをついてくるから。 俺は無意識に舌打ちをしつつも好きで伸ばしているわけではない襟足の髪に触れ、ゆっくりと光から視線を逸らしたけれど。その行動は、肯定を意味しているらしく。 「やっぱりね。ユキちゃんは、良いことがあると伸ばした襟足を触る癖があるんだよ。因みに、今も触ってるから」 ニンマリと微笑んだ光は、えらく得意げに俺の癖について語る。けれど、髪に触れてしまうのは無自覚の行為なワケで。 「お前は俺に優しくないクセに、そういうところは見てんだな。けど、なんで女関係って言い切れんだよ?」 自分の癖を指摘され、面白くない俺は光にそう訊ねた。すると、一瞬にして光が纏う空気が変わって。 「それはねぇ、俺の勘」 ……我ながら、勘が鋭いダチを持ったもんだ。 だが、残念なことに光の勘は当たらずとも遠からず。今回のことに関しては、女関係で浮かれているわけじゃない。 「詳しい事聞きたいから、今から飲みに行こっ!」 けれど、返答する気になれなかった俺の腕を強引に引いた光は、俺を問い詰める気でいるらしいが。 「飲みに行くっつっても、まだ15時だぜ?こんな時間から開いてる飲み屋なんてねぇーだろ、店開くまで何すんだよ?」 本人の俺ですら、何をどう話したらいいか分からないってのに……光からのお誘いは、イヤな予感しかしない。とりあえず、俺は腕に巻き付く光を引き剥がして。飲みの誘いを渋々受けつつも、今後の動きを光に問い掛けた。 「駅前の雑貨屋さんで、可愛いオカメインコのぬいぐるみが売ってるの。まだ俺、ユキちゃんから誕生日プレゼント貰ってないからさ」 「そのオカメインコが誕プレでいいなら、買ってやっけどよ……ってか、お前はいつ20歳になったんだ」 「さすがユキちゃん、話が早い。でも、やっぱり俺の誕生日忘れてたんだね。俺の誕生日はね、4月5日、もう3日間も過ぎてるの」 「ふーん、そりゃめでてぇーな」 全く持って思ってない祝いの言葉を告げると、光はわざとらしく頬を膨らませる。 「忘れてたくせに……まぁ、覚えられてても気持ち悪いけど。抱いた女の子の名前すら覚えてないユキちゃんだからね、お変わりないようで何より」 「誕生日とか名前とかどうでもいいだろ、覚えるだけムダだし」 「昔から、伊達にクズ男やってるわけじゃないってことね。とりあえず、駅前まで出よっか」 俺は光から嫌味を言われながら行き先を決め、軽く身支度を整えた光を連れて部屋を出ることにした。

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