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第26話

【星side】 ゆっくりと重い瞼を開け、辺りを見渡したオレは部屋の暗さに驚いた。いつの間にか寝てしまったらしいオレは、制服を着たままで。 寝ぼけた頭でのろのろと着替えを済ませ、オレはボーッとしながらリビングへと向かった。時計を見たらもう夜の19時を過ぎていて、父さんと母さんは、楽しそうに2人並んでテレビを観ていた。 ……昔から、仲の良いご夫婦ですコト。 そんなことを思いつつ、オレとりあえず母さんに問い掛ける。 「母さん、兄ちゃんは?」 「光なら、お友達と飲みに出かけるから、夜は遅くなるって連絡きたわよ。それより星、お風呂とご飯どっちが先?」 「……んー、先にお風呂入ってくる」 兄ちゃんの友達、それはきっと白石さんなんだろうって。考えたくないことが頭に浮かんだオレは、母さんにそう伝えてお風呂に入ることにしたんだ。 あったかいお湯を身体に流した後、オレはポカポカして気持ちいい湯船に身を沈めていく。 お湯に浸かりながら、考えしまうことは白石さんと兄ちゃんのことで。オレは頬をつねってみたりしたけれど、今日の出来事は夢じゃなかったんだって思った。 オレは、いいなりって言われたけれど。 白石さんと兄ちゃんは、高校の時から友達って言ってたから。白石さんと仲良くすれば、もしかしたらオレの知らない兄ちゃんのことが分かるのかもしれない。 兄ちゃんは、あんまり自分のことは話したがらないから。オレより白石さんの方が兄ちゃんのことをよく知っている感じがしたし、きっと白石さんと兄ちゃんは仲がいいんだと思うんだ。 ……でも、あんなことがあったのに。 白石さんは、どんな顔をして兄ちゃんと話しているんだろう。オレが現実逃避して眠っていた間にも、白石さんは兄ちゃんと遊んでいるんだって思うと不思議な気分になってしまうのに。 『……俺の全部、お前に教えてやるよ』 思い出すのは、耳に触れるほど近くで囁かれた白石さんの言葉。 その途端、急にドクンと震えた心臓が熱く感じて。 白石さんの全部って、なんだろう。 教えてもらう代わりに、オレはいいなりで拒否権はない。約束を守れなかったら、その時は兄ちゃんに全てをバラすって。 白石さんから逃げられないのなら、オレは白石さんを利用しよう。白石さんのいいなりでも、白石さんの言う事を聞いて従っておけば兄ちゃんの情報は聞き出せるはず。 ……オレ、兄ちゃんのこともっと知りたい。 兄ちゃんのことを知ってる、白石さんのことも。全部、教えてもらうんだ。 そう心に決めて、オレはお風呂から出ると前髪をピンで留める。前髪が邪魔だから、家では大体このスタイルで過ごしているけれど。 家では邪魔な前髪が、1歩外へ出ると落ち着く要素に変わるからオレの前髪は伸ばしっぱなしで。 洗面台の鏡を覗き込み、そろそろ切らなきゃダメかもしれないと思うくらいに伸びた髪と睨めっこして数分。どうにも出来ないのは髪だけじゃないことに気づいたオレは、大きな溜め息を吐きながらリビングへ向かった。

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