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第34話

オレが知らない母親の顔が弘樹のお母さんにはあるのか、弘樹からすると自分の親だからなのか。母親のことを悪く言いつつも、弘樹は目的のシューズの売り場の前で足を止める。 均等に色んなデザインのものが並べられている中で、弘樹は赤色で黒のラインが入っているシューズを迷うことなく手にとった。 「このシューズ、普段使いもできるけどランニングシューズとしても使えるんだ。デザインもカッコいいし、俺よく走り込みするから」 「そうなんだ、弘樹って足のサイズいくつだっけ?」 「27.5cm」 「んーっと、弘樹のサイズあるかなぁ……」 弘樹が手にとったディスプレイ用のシューズは、残念ながら弘樹のサイズとは異なっていて。弘樹と2人でサイズ探しをしていると、どこからか聞き覚えのある声がした。 「お客様、何かお探しですか?」 その声に驚いて、オレは思わず顔を上げる。 すると、そこには昨日見た時とは異なる表情でふんわりと微笑む白石さんがいた。 「あの、このシューズの27.5cmのサイズありますか?」 オレと白石さんが昨日会ったばかりの知人だなんてことを知らない弘樹は、オレの感情をおいてけぼりにして白石さんに訊ねてしまうけれど。 弘樹の問い掛けに応えるように動き出した白石さんは、ディスプレイの下にある在庫の中から素早く商品を見つけ出してくれた。 「こちらの商品ですね、試し履きされますか?」 「はいっ!」 弘樹は嬉しそうに白石さんと話しながら、サイズの確認を始めてしまって。 「このシューズ、ずっと欲しくて。俺サッカーやってるんですけど、朝とか走り込みしたいんっスよ。でもトレシューでアスファルト走るのはって思ってた時に、このシューズみつけて」 「サッカーやってるんですね、僕もサッカーやってましたよ。アスファルトでのランニングも問題ないので、いっぱい履いてあげてくださいね」 ふんわり笑顔の白石さんと、満足そうな顔の弘樹。オレだけがこの状況に着いていけずに、ただ呆然と立ち尽くす。 白石さんは学生じゃないのかなとか、喋り方が全然違うとか、醸し出している雰囲気が好青年風だとか……オレの頭は様々なことを考え、そしてそのうち停止して。 「俺、他の商品も色々みたいから。セイも適当に、店ん中見てていいよ」 「あ……うん、わかった」 サイズの確認を終えたらしい弘樹に声を掛けられ、オレは現実世界に引き戻されたけれど。全く興味のないシューズたちの前で、弘樹に取り残されたオレに近づく人物がいて。 「……星、お待たせ」 オレの耳元で囁くのは、オレが知る白石さんの甘い声だったから。 「あの、どうして白石さんがここにいるんですか?」 動揺を隠せないオレは、とりあえずこの状況を理解しようと白石さんに問い掛けたけれど。 「それ、こっちのセリフだから。俺はここの店員、そんでお前はお客、OK?」 ……OKって言われても、オレよく分かんないよ。

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