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第51話

「せっかく選択肢与えてやったってのに、自ら望んでどうすんだ……ったく、どうせならこっち掴んどけ」 ギュッと力が入っている手に、白石さんの温かな手が重なって。白石さんは、オレの手を取り自分の首に回すよう促してきたから。 白石さんから手を離さなくていいんだって、妙に安心してしまったオレは白石さんに抱き着いているみたいで。安心して、緊張する……そんな不思議な感覚が、再びオレを襲うけれど。 「お前は、こんだけでも充分気持ちよくなれんだろ。傍にいてやっから、不安そうな顔すんな」 「……うん」 「いい子だ」 額に落ちてきたキスは、ふわりとしていて心地良かった。優しく笑ってオレを見る白石さんの瞳はとてもキレイで、その瞳の中にはオレがいて。白石さんに抱き着いて、白石さんに抱き締められて。 沢山の言葉を並べてみても、今オレが感じている気持ちの説明はつかない。でも、オレは嫌だって思わないどころか、なんだかすごく暖かで柔らかな気持ちになっていくんだ。 「お前さ、明日の朝メシ何食いたい?」 「朝、ごはん?」 「そう。明日は俺、時間あるから一緒に作ってやってもいいかなって……っと、ちょっとごめんな」 オレの上で片腕を回してオレを抱き締めてくれていた白石さんは、そうひと言断りを入れるけれど。オレに体重をかけないように、白石さんはオレのことを気遣いながら抱き締めてくれていたんだって。 白石さんのちょっとした優しさに気がついたオレは、ベッドの中央から少し横にずれ、白石さんが横たわるスペースを確保する。 すると、白石さんはオレの頭を撫でてくれて。 「サンキュー、星くん……んで、食いたいもんは決まったか?」 オレの隣りで肩肘をついて寝転がった白石さんに、オレはボソリと食べたい品を呟いた。 「……オム、レツ」 「ふーん、オムレツね」 小さく言ったオレの声を、ちゃんと聞き取ってくれる白石さんって実は結構すごい人だと思う……って、そうじゃなくて。 「卵あるし、一緒に作ってみっか?」 「え、いいんですか?」 「食いたいんだろ?」 白石さんの耳の良さに感心している場合じゃないオレだけれど、白石さんからの提案は嬉しくて頬が緩んでしまうから。たぶん、オレはものすごく力の抜けた表情で白石さんの問いに頷いたんだと思う。 ふわふわで、とろとろで。 真っ白なお皿の上に、幸せいっぱいの黄色が形よく輝くオムレツ。 実のところは、今までに何回か挑戦したことがある。でも結局、オレが作るとキレイなオムレツの形にならないからスクランブルエッグにしてしまうんだ。 白石さんが作ってくれるオムレツって、きっと……ううん、絶対に美味しいと思う。あれだけ手慣れた感じで料理できちゃう白石さんのことだから、オムレツもキレイに作れちゃうんだろうなって。 オレの頭の中はもう既にオムレツのことでいっぱいで、隣りにいる白石さんのことを忘れかけてしまうけれど。 「オムレツ楽しみなのはわかったけど、いい子は早く寝ないとな」

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