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第52話
膨らむ期待が大きくなって、現実から旅立とうとしそうなオレを引き止めたのは、オレを見てクスッと笑った白石さんだった。
でも、なんとなく違和感を感じたオレは白石さんに問い掛ける。
「オレ、寝てたところを白石さんに起こされた気がするんですけど?」
ソファーで眠ってしまったオレをベッドに運んで、その後は……何をされていたのか不明な点は多々あるけれど、オレは白石さんにキスされて目覚めたのに。
「……そう、だっけか?」
当の本人はどうやらしらを切るつもりでいるのか、白石さんは身体を起こすとオレから離れてソファーに寝転がってしまった。
オレが自分で起きたのか、白石さんに起こされたのか。白石さんを問い詰めてその理由を深く掘り下げても、おそらくオレはただただ恥ずかしい思いをするだけだから。
それなら、しらを切った白石さんに合わせてしまった方がオレも恥ずかしくないし、白石さんも好都合なんだと思うけれど。
とりあえず、今はそんなことよりも。
「あの、せっかくベッドに運んでもらったのにこんなこと言うのはおかしいかも知れませんけど……白石さん、仕事で疲れてると思うからオレがソファーで寝ます」
ショップのバイトが終わってからオレを迎えに来てくれて、ドライブをしたり家事をしたりで白石さんは全然休めていないと思うから。
ソファーで寝るよりも、ちゃんと身体が休まるベッドで寝た方がいいんじゃないかって。精一杯の良心でそう言ったオレに、白石さんはニヤリと笑ってこう言ったんだ。
「んなこと、お前が気にする必要はねぇーよ。それともナニ、さっきの続きでも期待してんの?」
……白石さん、オレの優しさを今すぐ返してください。
そう思っても口にはできず、オレの顔は真っ赤になっていくだけだった。
やっぱり、白石さんがオレにキスした所為でオレは起きちゃったんだって。こんなことになるくらいなら、あのまま寝かせて欲しかったって。
オレばかり恥ずかしい思いをして、オレだけが1人で戸惑って。
「あの、期待なんてしてないですから……えっと、ベッド貸してくれてありがとうございます。それと、えっと……あ、おやすみなさい」
「ん、おやすみ」
オレはベッドで丸まりながら、クッションで顔を隠して羞恥心に耐える。そんなオレの様子を見て笑っているらしい白石さんの声も、ゆっくりと聴こえなくなっていく。
けれど、白石さんの余計なひと言が尾を引いて、早く眠らなきゃいけないのにオレはなかなか寝付けなかった。そのうち部屋の灯りが消えて、ソファーにいる白石さんの表情も見ることができなくなって。
白石さんの匂いがするベッドにオレ独り放置されても、オレは落ち着くことができないから。
さっきみたいに傍にいて、抱き締めていて欲しいなんて……頭の片隅で、オレはそんなことを考えていたけれど。その思いを白石さんに伝えることができないまま、オレは少しだけ寂しい気持ちを抱えつつ眠りについたんだ。
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