53 / 142

第53話

【雪夜side】 部屋の電気を消して、数分後。 ベッドで眠りに着いてくれたらしい星の寝息が聴こえ、俺は独り安堵する。 連れてきたのは俺だが、星は一応来客者だ。 それなのに、俺を気遣ってソファーで寝ると言い出したアイツは真面目で優しい性格なんだろう。 軽くキスをして、遊んでやるつもりだった。 何しても起きないアイツの反応を見て、単純に楽しむつもりでいた。 けれど、徐々に色づいていく星の姿を見て、俺の中で何かが変わっていくのが分かった。 流れに任せて星を抱いたら、アイツに拒否権がないままコトを進めてしまったら。それは、今まで抱いてきたクソアマ共と何ら変わりない存在になってしまうと。 そう思った時、俺は初めて人を傷つけることを恐れ、星に選択肢を与えていた。 襲う気がなかったといえば嘘になるし、アイツの反応が可愛く思えたのは事実だけれど。 星は、コイツだけは傷つけちゃいけねぇーって。 頭のどこかで膝を抱えて待機していた俺の理性が、星の前でもクズ野郎に成り下がろうとした俺の手を止めくれた。 俺のシャツを小さな手で必死に掴み、上目遣いで濡れた瞳を向けられて。しっかりと快楽に溺れ始めたアイツは、俺を拒むことはしなかったけれど。 ……内心、すげぇー犯したくて堪んなかったケド。 今後、あの表情を俺に見せてくれるのなら、何も今焦って手を出す必要はないだろうから。 目の前で俺に縋る星を、俺はできるだけ大切にしてやりたくて。星の存在を確かめるように抱き締めてやると、アイツは安心した様子で俺の問いに素直に頷いていた。 男に抱き締められて気持ちいいと思う時点で、俺も星も互いに異常だと思うし、通常なら有り得ない感情を抱いているのは確かなことなのに。 はっきりしない曖昧な想いの正体が掴めない以上、俺が星を繋ぎ止める術は口約束の契約だけで。 男だからとか、光の弟だからとか。 様々なことを突破らってしまえば、俺の想いは説明がつくのだが。 厄介なことに、俺は今まで恋愛をしたことがないから。たぶんとか、おそらくとか……そういった言葉で誤魔化されていく感情を、初恋と呼ぶべきか俺は無駄に悩んでしまう。 こういう時こそ、相談するに相応しい相手はいるんだが。煩いことこの上ない野郎に、わざわざ俺から連絡するのはどうにも面倒で嫌になる。 けれど、このままよく分からない感情を抱えて無駄に悩む暇があるなら、俺は潔く自分の気持ちを認めるべきなんだろうとも思うから。 静かに寝息を立てて眠る星を今度は起こさないように、 俺は物音を立てないよう注意しながら、煙草を咥えてベランダへ出ていった。 4月とはいえ、まだ少し肌寒い春の夜。 若干、俺は寒さで身震いしつつも煙草の煙りを味わっていく。 この煙草を吸い終わったら、俺は腹を括ろうと。初めて触れたいと、大切にしたいと思える存在が現れたって……おそらく、俺が最初に伝えるべきであろうヤツのことを考え、俺はゆったりと時間をかけて大事な1本を吸い終えた。

ともだちにシェアしよう!