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第66話

いくつかある席の中で、白石さんは迷うことなくカウンターへとオレを案内してくれて。オレが緊張しながらも席に着くと、白石さんもオレの隣りに腰掛けた。 「星ちゃん、料理は好き?」 「あ、えっと……はい、好きです」 カウンターを挟んで向かい側に、ランさんが立っている。飲食店の店員さん、しかもオーナーさんとお話ができるなんて……オレは、夢でも見ているのかもしれない。 「今日はメニューにないものでも、貴方が食べてみたいものを言ってくれれば、私がご馳走するわ。雪夜と2人、楽しい時間を過ごしてちょうだい」 ランさんはそう言って、オレにウインクしてくれた。 「騒がなきゃな、黙ってりゃな、綺麗なのにな」 白石さんはわざとらしく単語ごとに区切り、オレの隣りでそう呟きながら、オレにメニューを手渡してくれる。 容姿端麗なランさんは、喋っていてもキレイなのは変わらないと思うけれど。白石さんから見るランさんは、どうやらそうではないらしい。 でも、文句を言いつつオレが見やすいようにメニューを広げてくれる白石さんは、オレに優しく接してくれて。メニューに視線を移したオレは、どれにしようか迷ってしまうんだ。 「ロコモコもオムライスも食べたいし、パスタも食べたい……でも、パンケーキも捨て難いし……白石さん、オレは、オレはどうしたら……」 食べたい品が多過ぎて、選ぶことなんてできない。とっても美味しそうな料理やドリンク、スイーツ等が写真付きで載っているメニュー表は、オレの心を虜にして……迷った挙句、オレは白石さんに助けを求めた。 「またいつでも連れて来てやっから、今日はとりあえずランにお任せプレートでも作ってもらえ」 白石さんはそう言うと、ジャケットのポケットから煙草を取り出し火を点ける。そのタイミングで、ランさんは白石さんの前に灰皿を置いて。 「雪夜はコレね、星ちゃんも雪夜と同じもので構わないかしら?」 ランさんは、カットされたレモンがのったグラスとおしぼりを白石さんとオレの前に置いてくれた。 「ん、サンキュー」 「レモンペリエっていって、ただのレモンの香りがする炭酸水よ。雪夜はうちに来ると必ず最初にこれを頼むの。さて星ちゃん、食べたいものは決まったかしら?」 「食べたいものが色々あり過ぎて、なかなか決まらねぇーらしいから、ランのお任せでワンプレートにしてやって」 白石さんはランさんにそう言うと、煙草の煙りを細く吐くけれど。本当にいいのかなって思ったオレは、ランさんに問い掛ける。 「すみません。どれも美味しそうで1つに決められなくて…………ランさん、迷惑じゃないですか?」 「迷惑なんかじゃないわ、お安い御用よ。雪夜、貴方は?」 「俺もお任せで」 ランさんはオレと白石さんの注文を確認すると、少し待っててねと告げて奥の厨房に入っていった。

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