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第67話

料理が出来上がるまでの時間は、いつでも少しだけドキドキしてしまう。それがこんなにステキなお店での食事なら尚更、期待する気持ちは強くなるけれど。 隣りにいる白石さんは、オレとは違って落ち着いているから。 「白石さんって、こんなにステキなお店に中学生の頃から来てたんですよね……羨ましい、というより、なんかすごいと思います」 チラっと白石さんを横目で見たオレは、思ったままの感想を述べた。 飲食店でも、年齢に見合うお店ってあると思うんだ。ファーストフード店やファミリーレストラン、アイスクリーム屋さんとかクレープ屋さんとかなら中学生でも比較的入りやすいお店だと思うけれど。 弘樹と行っていた駄菓子屋で満足する中学生時代を送っていたオレには、カフェでご飯を食べるなんて選択肢はなかったのに。 「別に、凄いことでもなんでもねぇーよ。兄貴が俺の誕生日に旨いもん食わせてやるからっつって、連れてこられたのが中2ん時ってだけだから。んで、その時ランに良い男ねっていきなり話しかけられただけ」 ……だけって、だけだじゃないよ、白石さん。 中学生ってまだまだ子供だし、やっと高校生になったオレだってまだまだ子供なのに。そんな時から良い男だって言ってもらえる白石さんって、何者……いや、でも今の白石さんは確かにカッコイイから、白石さんは昔からイケメンさんだったのかもしれないって。 薄々気づいてはいたけれど、白石さんはオレとは違う次元で生きているんじゃないかと感じたオレは、白石さんに確認する。 「あの……え、えっと、中学生の白石さんが、ランさんにナンパされたってことですか?」 「まぁ、そういうコトだな。貴方が来てくれるならお代はいらないわって、だからいつでも来てねっつってランに言われたから、本当にいつでも来てやってた」 「ウソ……あ、え、それ現実ですか?」 オレは本当に現実世界にいるんだろうかと疑ってしまうほど、白石さんの話は異次元過ぎて理解できないけれど。 「現実、本当の話で間違いないわ……流石に雪夜が高校に入った頃くらいからはちゃんとお代を頂いてるから安心して、星ちゃん」 カウンターの奥からそう言って出てきたランさんの手には、ワンプレートのお皿が2つ乗っていた。 白石さんの話も現実で、今も現実。 当たり前のことなのかもしれないけれど、夢のような空間で夢みたいな話を聞いた直後じゃ、オレの頭は混乱しても仕方がないと思うんだ。 白石さんとランさんに、聞きたいことはまだまだ色々とある。でも、ランさんがオレの目の前に用意してくれたお任せランチは、夢とか現実とか、そういった考えを一瞬にして吹き飛ばしていく。 真っ白なお皿は4つに仕切られていて、オムライスとハンバーグ、クリームパスタとサーモンのカルパッチョがキレイに盛られている。 今なら、オレは食レポする人の気持ちが少しだけ分かるような気がする……宝石箱って表現は、料理の世界でも使えるのかもしれないって思うから。

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