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第69話

食事の後、ランさんが淹れてくれたコーヒーを飲みながら、オレと白石さんはのんびりとした癒しの時間を満喫する。 ランさんがオレのために、砂糖とミルクがたっぷり入った甘いカフェオレを用意してくれたおかげで、オレはコーヒーの苦味に悩まされることはないけれど。 「雪夜を初めて見た時は、本当にびっくりしたわ。あまりにもカッコイイ男の子だったから、声をかけたら中学生だったんですもの」 カウンターの向かい側で白石さんの話をするランさんも、オレの隣りで煙草を咥えている白石さんも。2人とも飲んでいるのはブラックコーヒーで、やっぱりオレだけが子供なんだって思ってしまうんだ。 「中学生って今のオレより歳下ですし、そんな頃からかっこよかったなんて………白石さん、白石さんはやっぱり年齢詐欺してるんじゃないですか?」 「してねぇーよ、アホか」 なんだか無性に悔しく感じてオレが白石さんに訊ねると、白石さんは笑いながら煙草の煙りを吐いていく。そんな仕草も大人っぽくて、かっこいいなんて思ってしまったことは内緒にしておこうと思った。 「中学生なのに大人の雰囲気の雪夜に、私が一目惚れしたのよ。雪夜と少しでも、お近付きになりたくてね……惚れた相手だから特別にお代はいらないわって言ったら、本当にいつでも来るようになっちゃって」 「タダでこんな美味いメシが食えるなら、誰だって来るだろ。この店、俺の実家から近いし」 「……白石さんばっかり、ズルイです」 オレが白石さんの立場だったなら、オレもいつでも来てしまうと思うけれど。外見の良さがこんなにも、プラスに働く世の中は残酷だって……そんな思いを隠し切れないオレは、白石さんを横目に頬を膨らませる。 「まぁ、確かにタダだったけど。高校入ってからは、ランの知り合いの店で強制的に働かされたから。俺が校則違反してたのは、コイツの所為でもあんだよ」 「じゃあ、白石さんが料理上手なのは、ランさんのおかげなんですね……でも、やっぱり白石さんはズルイですよ」 「その文句はランに言え、タダにしてたのは俺じゃねぇーし」 白石さんが羨ましいと思うけれど、白石さんとランさんには色々な事情があるようで。膨れっ面のオレを見て、ランさんは困ったように微笑んだ。 「ごめんなさいね、星ちゃん……私はそれだけ、雪夜に惚れていたのよ」 好きな相手だから、特別な感情を抱く人だから。 だからランさんは白石さんにだけ、かなりの優遇対応をしていたことは理解するとしても。 オレには大人の色恋沙汰なんて分からないし、ランさんだって白石さんへの想いは叶わない恋なんじゃないかって……それなのにどうして、ランさんはオレの前で平然としていられるんだろうって。 兄ちゃんに対しての想いを必死で隠さなきゃって思っているオレにとって、ランさんの発言や行動は衝撃的だから。 「………ランさんは、今でも、白石さんのことが好きなんですか?」 なんだか物凄くモヤモヤした気持ちを抱え、オレはランさんにそう問い掛けていた。

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