107 / 142

第107話

「あの時だろ。コレ、つけられたの」 その言葉とほぼ同時に、オレの首筋に弘樹の手が触れる。 「……ッ」 突然のことで抵抗もできず、弘樹の話に反論もできないオレは身を縮めるのがやっとだった。 「大分薄くなってきたけど、あの店員となんでそんなコトしてんだよ?」 「弘樹には、関係ないことでしょ……オレがどこで何してようと、弘樹にどうこう言われる筋合いはないじゃん」 オレは弘樹から視線を逸らし、何処かで聞いたことのあるセリフをそのまま弘樹にぶつけていた。けれど、弘樹に引き下がる気はないようで。 「んじゃ、質問の仕方変える」 そう、ひと言。 呟いた弘樹の手は首筋から顎へと移動し、オレは強制的に弘樹と視線を交えた。 そして。 「俺は、ずっと昔から男としてセイが好き……なぁ、好きな相手が他のヤツにキスマ付けられてても、それでもセイは関係ねぇって言えんの?」 白石さんがつけていった、たった1つの小さな赤い痕。オレの身体に残るその印は、オレと弘樹の仲を狂わせていく。 「……弘樹は、友達だよ。男として好きって、言ってる意味が分かんないんだけど」 オレが白石さんに惹かれているみたいに、弘樹はオレのことが好きって話だとしたら。なんとなく意味は分かってきたけれど、そんなの有り得ないと思う気持ちの方が強くて。オレは真っ直ぐに、弘樹を見ることができなくなってしまう。 「……もちろん、友達だよ。今までも、これからも。でも、それだけじゃないんだ。色々悩んだけど、セイには俺の気持ちだけ伝えとく。返事は、まだいらないから」 男の白石さんと男のオレが、イチャついているように見えたって……それが気持ち悪かったとか、友達としてヤバいと思うとか。そんな話の上をいく弘樹の告白に、オレは何も理解できていないまま頷いてしまったんだ。 「それよりさ、ショップの兄さんのこと教えて。どんなことが起こって、セイがあの人と一緒にいたのか知りたい」 「だから、弘樹には関係ないって何度言ったら……えっ、ちょ、何やってんのっ!?」 オレの顎を支えていた弘樹の手がふわりと肩へ移り、そのまま体重を掛けられたオレはベッドに押し倒されていた。 弘樹は、冗談でこんなことをするタイプじゃない。でも、オレは冗談だって思いたい。授業をそっちのけで友達から押さえ付けられているこの状況は、冗談でも笑えないのに。 思った以上に力の強い弘樹は、オレがベッドの上でもがいてもビクともしない。同い年で、お互い物心が着いた頃から一緒に遊んでいた友達なのに。 「セイが話してくれないなら、このまま色々しようかと思ってる。今、誰もいないし……俺たちもう高校生だし、それなりに男だしさ。話してくれるなら何もしないけど、セイはどうする?」 どうするも、なにも。 親友の弘樹に押し倒される前、オレは兄ちゃんにも似たようなことをされているから。 「話すっ、ちゃんと話すから……お願いだからこんなことしないで、弘樹。あのショップの店員さんは、オレの兄ちゃんの友達だったの」

ともだちにシェアしよう!