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第116話

「お前がお前なら、兄貴も兄貴だな……ってかさ、お前の兄ちゃんって何やってんの?」 康介は俺に兄貴が2人いることを知っているけれど、実際に会ったことなどない。会わせる理由もなければ、会わせたくもないから、話で聞いている程度が丁度いい。 「2人とも実家継いで、外車を専門で取り扱ってるクルマ屋。継ぐっていっても、どちらかというと親父の奴隷の様に働かされてるけどな。親父は海外に買い付け行ったまんま、羽伸ばして遊んでっから」 長男は営業、次男は整備士。 ディーラー家業を無理矢理継ぐことになった兄貴たちだが、三男の俺からしたらどうでもいいことで。身内の話を康介にしながらも、俺の視線は煙草のパッケージに落ちるだけだった。 「あぁ、だからお前いい車乗ってんだ。大学生の分際で外車とかすげぇムカついてたけど、納得」 「あれは兄貴のお古。グレードはそこそこだけど、新車じゃねぇーんだよ。強制的に兄貴に乗せられてる車だからな、文句言うなら兄貴に言え」 「言えるわけねぇじゃん、会ったことねぇし……でも、白石の兄貴に頼めば安く譲ってくれたりすんの?」 「知らねぇー……ってか、お前免許持ってねぇーだろ。運転できねぇー車の所有ほど無意味な物なんてねぇーからな、まずは免許取ってこい」 大学1年の夏、親から費用を出してもらい合宿で免許を取る予定だった康介。しかし、このバカはその金をあろうことか生活費と飲み会で全て使い切ってしまったらしいから。 「金がねぇんだよッ!!俺が悪いんだけどさっ、今のところ車なくても不便じゃねぇからそのうち取りに行ってくる予定、そう、俺はその予定なんだッ!!」 「その予定のヤツが、俺のどうでもいい話聞くために金使ってたら世話ねぇーだろ。さすがバカだな、康介」 康介と心底どうでもいい会話を繰り広げ、俺が煙草からその横に置いておいたスマホに視線を移した時。数回のバイブレーションが響き、ある通知が画面上に表示された。 ……アイツ今、授業中じゃねぇーの? LINEの通知をすぐに確認し、相手を把握した俺は疑問を浮かべながら内容に目を通していく。本来なら昼休み終えて午後の授業を受けているはずの星、そんな星からの連絡は緊急速報のようで。 「……白石、威圧感が半端ねぇんだけど」 「アァ?」 「さっきのニヤけ顏はどこいったんだよ。お前、そんなんで今日接客できんの?」 ぐっと眉間にシワが寄った俺の表情を見て、康介は身を縮めて呟いたけれど。 「仕事は別だ、バカ」 俺はいつもの営業スマイルで康介に微笑んでやり、内心で感じた殺気を消し去っていく。そして、俺は徐ろに立ち上がるとスマホを手にし、康介に話し掛けた。 「さーて、そろそろバイトに行きますか。ごちそーさまでした、コースケクン」 「え、まだちょっと早くねぇか?」 「今日は特別なお客様が来るらしいから、ちゃーんとお仕事しねぇーと」 「誰だよ、特別な客って」 「ナイショ」 星にひと言、大丈夫だとLINEを送り返し、俺は何食わぬ顔をして康介と共に店を出たのだった。

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