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第117話

出勤時間よりも30分以上早くショップに着いた俺は、ロッカールームで着替えを済ませた後にLINEの内容をもう一度確認した。 どうやら、俺が出勤している間に弘樹という名の星のダチがショップに訪れるらしい。しかも、ソイツが俺に迷惑をかけることになるそうだ。 星が放課後じゃなく、休み時間でもなく、授業中に送ってきたLINE。詳細は得られないままだが、真面目なアイツが授業中にスマホを弄るとは考えにくいから。どうしても俺に伝えなきゃならないことで、緊急性のある情報だということは理解できた。 おそらく、弘樹と呼ばれた野郎は星と一緒にショップに訪れた星の幼なじみで間違いない。俺が星と知り合う前、星にちょっかい出してる幼なじみがいると光が言っていたことがあるのだが……それは、弘樹のコトを指していたのだろうと予測がついていく。 他にも、俺は上げられるだけの可能性をピックアップした。けれど、俺が送り返したLINEは既読がつかないまま、俺自身のことよりも星の安否が心配になりつつあって。アイツに何かあったことだけは間違いない状況で、平然を繕い仕事をしなきゃならないのは地味に辛いのに。 「白石ぃー、結局誰が来んだよぉー、女ぁ?」 呑気に問い掛けてくる康介は考えることが何もない分、ある意味幸せそうに頬を緩めていた。 そんな康介を適当にあしらっていると、思いの外出勤時間が迫っていて。俺はとりあえずいつも通りの仕事をこなしながら、弘樹という名のお客様を待つしかなかったのだ。 抱いた女の名前すら覚えることのない俺に、名を覚えてもらった弘樹クンはVIP客確定だろう。しかし、残念ながら容姿等は全く思い出せず、本当に来るのかと疑いを持ち始めた頃のこと。 星と同じ制服を少し着崩して、俺に真っ直ぐに向かってくる野郎が1人現れたのだ。 ……弘樹クンのご登場、デス。 「あの、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」 「どうなさいましたか?」 星の情報通り、ショップに姿を見せた弘樹は俺に用があってここまでやって来た雰囲気を醸し出しているけれど。俺はあくまで、営業スマイルで接客するフリを徹底していく。 「星にキスマ付けたの、アンタですよね?」 頭の片隅に置いていた予感が見事に的中し、俺からは笑いが漏れそうになる。けれど、それをなんとか堪えた俺は、すぐにでも答えてやりたい気持ちを抑えてこう告げた。 「お客様のご質問に、ここではお答えすることが出来ません。大変申し訳ありませんが、僕の勤務が終了してからでもよろしいですか?」 言葉使いは丁寧に、ショップに迷惑をかけることのないよう、ここではなるべく穏便に済ませる必要があるのだが。 「終わるの、何時?」 ……タメ口かよ。 こっちの都合なんざ関係なく、闘志を露わにして俺に突っかかてくる弘樹。まだあどけなさが残る高校生になったばかりの相手は、おそらく星に惚れているのだろう。

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