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第124話

俺は、何度ない余裕を振り絞ればいいのだろう。 星との関係は、まだ始まったばかりだというのに。俺が思っていた以上に、アイツは周りから愛されている。それが恋愛感情抜きなら良いのだが、弘樹の場合は幼い頃からの初恋だ。 無自覚に男を寄せ付ける星には困ったものだが、俺もその寄せ付けられた一人なのだから致し方ない。今日の敵は明日の友……とまではいかないが、弘樹には弘樹にしか成し遂げられないこともある。 そう思い、条件付きで呈示した俺の意見を聞いた弘樹は、目を丸くしながら唇を尖らせていく。 「アンタは、なんでそんなにカッコイイんだよっ!!普通、もう近づくなとか言うだろ……俺なら、絶対言う。俺、セイにアンタを近寄らせたくねぇもん」 そりゃあ俺だって、出来ることならそうしたいけれど。本来の意味を理解できずにいるらしい弘樹に、俺は言葉を付け加えた。 「お前は、アイツの大事な『友達』だからな。俺だけの都合でアイツからお前を奪ったら、アイツが可哀相だろ。俺は、アイツのダチにはなれねぇーから。アイツの、友達としての1番は弘樹、お前にくれてやるよ」 俺はカシャンとシルバーのジッポを開けて、煙草に火を点けた。これでもう3本目、ハイペースで増える吸殻の本数は俺の心の余裕のなさと比例する。 「……俺が、セイに手出さないって保証はないんッスよ。なのにさ、そんなこと言って……俺がセイに手、出したらどうすんですか?」 「その時は、俺がお前を犯してやるから覚悟しとけ」 「うはっ、冗談?」 「マジだ、クソガキ」 人を想う気持ちの形は、人によって様々だ。 光が兄として星の傍でアイツを見守っているように、弘樹は友達として星の傍にいてやることができる。しかもそれは、親友という星にとって大切な存在。 弘樹の身勝手で俺から星を奪うことは可能だが、俺の身勝手で星から弘樹を奪うことはできない。もちろん、星を奪わせるつもりはないけれど。友達としてのアイツは、俺の手に入るものではないのだ。 「……なんかもう、敵わないって感じッス」 ヘラヘラと力なく笑い出した弘樹はそう言って、再びテーブルから顔を生やし始めてしまう。 「お前、大丈夫か?」 敵対心剥き出しでショップにやって来た男だとは思えないほど、情けない面を下げて俺の前で項垂れる弘樹。 「俺、今日アンタが遊びでセイにあんなことしてたなら、殴ってやる覚悟で来たんッスよ……でも、アンタはすげーセイのこと考えてて。俺、自分のことしか考えてなかったなって気づいちまって」 俺も、弘樹とさほど変わらない。 星を最優先に考えているつもりでも、それが正しいことかは分からないのだから。ただ、弘樹の真っ直ぐな想いは少なからず俺を大人にした。 「セイのことが好きだって、誰かに打ち明けたのは今日が初めてで。打ち明けた瞬間、フラれた感じだったけど……セイのこと、諦めなくてもいいんッスね」 「諦めるなら、自分でケリつけてからにしろ。人の所為にして諦めるなんて、都合のいいことすんな。足掻けるだけ足掻いてみろよ、弘樹」

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