137 / 142

第137話

クレープやアイスクリームはもちろん、流行りに敏感な兄ちゃんは、SNSで映えそうなお店をセレクトすることが多い。なんとも陽キャな兄ちゃんだけれど、その姿がやたらと様になるから単純に凄いと思う。 「テイクアウトで買って、まず写真を撮って、その後ようやく歩きながら食べる……みたいな流れが多い、かも。それでも充分楽しめるし美味しいんですけどね、落ち着いた食事とは違うのかなって」 「あの悪魔は見た目重視だし、流行りもん大好物だから。好みも人それぞれだな、そう考えると食の相性って重要なのかもしんねぇーわ」 何気なく進んでいく会話が、途切れることはない。 気を遣って、何か言わなきゃと考える必要もなく、白石さんとのお喋りはゆったりとした流れで進行していくのが嬉しい。 「独りの時なら問題ないかもしれないですけど、味付けにも好みがありますもんね。あとは好き嫌いとか、その日の気分とかもあるから」 「食欲って、人間の三大欲求の一つだろ。しかも一日三食、どんだけ欲張りゃ満足すんだよってくらいに俺たち人間ってのは食べることに重点を置いてるワケだ」 「その大事な食欲を満たす時間を、好みの合わない人と過ごすのは確かに辛いかもです……食事って、考えていくと奥が深いのかも」 朝昼晩、食事をすることが当たり前で。 日常の中に、生活リズムの中に、食欲はあまりにも自然に溶け込んでいたから。改めて様々な食事風景を思い浮かべてみると、一つ一つの食事シーンで色んなことを感じているんだってオレは気がついた。 「産まれた環境でもバラつきがあるし、宗教的なものもある。それこそ、国が違えば作法だって変わるんだから不思議なもんだ。食欲ってのは、バリエーションが豊富過ぎる」 「その豊富なバリエーションの中から、白石さんはオレの好みを考えてくれたんですよね。嬉しいです、ありがとうございます」 お喋りするほど、オレは白石さんの心遣いに気付かされる。白石さんが色んなことに気を配ってくれたおかけで、オレはこうしてルンルン気分で食事を待つことができている。 その心遣いが嬉しくてオレが素直に言葉にすると、白石さんはクスッと笑いオレを見て。 「どうせ一緒に食事すんなら、お互いに楽しめた方が良いからな……まぁ、俺にそこまで思わせるヤツはお前くらいのもんだけど」 「それは、あの……オレ、喜んでもいいんですか?」 「好きなだけどうぞ、星くん?」 嬉しいやら、恥ずかしいやら。 素直に喜びたくても、目を細めて甘い表情で微笑む白石さんを直視してしまうとオレは照れてしまう。 きっと、白石さんのペースに流されているからなんだろうけれど。意識せずにはいられないドキドキ感、でもそれが心地いいと思った。 自分の中で次々と湧き上がってくる感情は、とても新鮮でオレはどうにかなってしまいそうなのに。頭がついていけなくても、心が戸惑ってしまっても。目の前にいる白石さんからは、逃げることができないんだ。 だって、もう。 「えへへ……オレ、今とっても幸せです」 ……オレは、逃げるつもりなんてないんだから。

ともだちにシェアしよう!