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第10話

「あんさ、話続けていい?」 ショックが大きすぎて現実逃避していたオレに、白石さんは確認を取るようにして尋ねてきて。 「……あぁ、ごめんなさい。どうぞ」 その場しのぎかもしれないけれど白石さんにそう言ったオレは、今はちゃんと白石さんの話を聞かなくちゃって自分自身に言い聞かせる。 「んで、この部屋入ったらまだ春なのに、やたらと暑くてとりあえずシャツ脱いで涼んでた。暇だったから煙草吸って桜眺めてたらお前が部屋に入ってきて、今に至る」 「えっと、オレの名前を知ってたのは白石さんが兄ちゃんの友達だから。それで、上半身裸だったのも、煙草を吸ってたのも、白石さんが兄ちゃんの部屋とオレの部屋を間違たからってことで……オレ、現状把握できてますか?」 なるべく集中して白石さんの話を聞いて、その内容から順を追ってオレは状況を整理した。そうして、オレが上目遣いで白石さんに尋ねてみたら、白石さんは笑って頷いてくれたんだ。 部屋の扉を開けた時、あまりにもキレイな絵に見惚れた反面、オレはこの世の終わりだとも感じていたけれど。今はそれが嘘のように、オレは白石さんにちょっぴり同情してしまう。 話を整理すればするほど、事の発端は兄ちゃんにあるような気がしてならないから。 でも、兄ちゃんを悪者にしたくないオレは白石さんに質問を投げ掛けることで気持ちを落ち着かせようとして。 「……あの、どうしてオレが星だって分かったんですか?名前はともかく、今日初めて会ったオレがオレだって分かるのは不思議です。あと、白石さんから匂ってくる甘い香りはなんですか?それから、白石さんは暑がりさんなんですか?白石さんは、初対面の人でもあんなに簡単に触れちゃうんですか?それと、それと……あ、いいなりってなんでしょう?」 質問で溢れ替えるオレの発言は、思ったことのほぼ全部を白石さんにぶつけていた。 それでも、白石さんは嫌な顔ひとつせずにオレの質問に答えようとしてくれて。 「真っ黒な髪に、伸ばした前髪。整った顔立ちに、印象的な大きな瞳。光からよくお前の話は聞いてっから、ひと目見てお前が噂の星くんだって分かった」 「兄ちゃん、オレの話するんだ」 「アイツは基本的に、お前の話ばっかしてる……で、次は匂いか。俺は光みたいに香水つけねぇーから、匂うならこの煙草じゃねぇーか?」 兄ちゃんが白石さんに、オレの話をしてくれているから白石さんは初対面でもオレのことを認識できたらしい。兄ちゃんがオレのことを思ってくれているって証拠を発見できて、オレの頬はふわりと緩む。 でも。 「可愛い顔して笑ってんじゃねぇーよ、質問してきたなら人の話はちゃんと聞けっつーの……ん、コレ」 兄ちゃんのことを考えると白石さんの存在を忘れてしまうオレに、白石さんは苦笑いしながらもジーンズのポケットから煙草の箱を取り出して銘柄をオレに見せてくれる。黒い箱に、青と緑のラインが入っているようなお洒落なパッケージ。 「ブルーベリーの味がすんの、俺のお気に入りの煙草」

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