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第11話

アロマのようなあの甘い香りは、ブルーベリーの匂いだったんだって。煙草は臭いってイメージが強かったけれど、この煙草に嫌悪感はないなと思った。 少しずつ、白石さんのことが分かって。 オレの知らない兄ちゃんのことも、白石さんは話してくれて。普段はかなりの人見知りなオレが、白石さんとは会話ができていることに気づき始めたころ。 「俺は、暑がりっつーか寒がり。それと、基本的に初対面のヤツとは距離を取るタイプだけど……お前さ、それ聞いてどうすんの?」 そう白石さんから尋ねられたオレは、疑問に感じた理由を話しだすけれど。 「あの、えっと……いきなり抱きしめられたり、頭撫でられたりされたから。だからその、白石さんは誰にでもこんなふうに接してるのかなって」 「なワケねぇーだろ、というより有り得ねぇーわ」 あっさりオレの意見を否定した白石さんは、オレから視線を逸らしてしまった。 「じゃあ、なんでオレには触れたんですか?」 有り得ないことなら、オレに触ったことも有り得ないことだと思うのに。そうはならなかった理由が知りたくて、オレは首を傾げてしまう。 「お前に触れる理由、ねぇ……」 白石さんは少し考えているみたいで、けれどすぐにオレを見てニヤリと笑ったんだ。そんな妖しげな表情を目撃してしまい、オレは何を言われるんだろうとなぜかドキドキして。 オレの耳元で、吐息とともにそっと囁かれた言葉は。 「……お前が、すげぇー可愛いから」 甘く響く音が脳内を溶かすように、一瞬オレは白石さんの声に酔いしれそうになったけれど。 「オレは、可愛くなんかないですっ!!」 我に返った途端、ものすごい恥ずかしさに耐えきれなくなったオレは、今日一番の大きな声で白石さんの言葉を否定する。 兄ちゃんも、弘樹も、白石さんも、人のことをなんだと思ってるんだろう。兄ちゃんに可愛いって言われるのは嬉しいから許すけれど、白石さんはまだどんな人か詳しく分からないのに。 「そういう反応の仕方とかな、やっぱお前可愛いじゃん」 クスクス笑っている白石さんは、オレの耳元で喋っていて。なんとかして押し退けようとオレは腕に力を入れてみるけれど、白石さんは離れるどころかどんどん近くなっている気がした。 「逃げようとしても無駄だぜ、さっき言っただろ。お前は、俺のいいなりだって」 優しかったり、強引だったり、白石さんって何者なんだろう……というより、耳に触れる白石さんの唇が動くたび、オレの身体から力が抜けていくのが怖い。 「んっ、もぅ……だから、いいなりって、なに?」 誰かに触れられて力が抜けるなんてこと、オレの15年間の人生で一度もなかった。兄ちゃんに触れられても、こんな状態にはならないのに。 「星……お前さ、光のこと好きだろ」 白石さんの少し低くて甘い声がオレの核心を突き、オレはそれを全力で否定するしかなくて。 「オレはっ、べ、別に兄ちゃんが好きなわけじゃないですからっ!」 「はぁ、図星かよ……」 白石さんは何か呟いたみたいだけど、パニック状態のオレはまったくそのことに気づかなかった。

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