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第24話

「今日は色々と、俺に付き合ってくれてありがと。ユキちゃんと話せて楽しかった、ごちそーさまでした」 終始俺の話題を酒の肴にし、満足したらしい光とともに店を出ると、光は深々とお辞儀をして俺に礼を言ってきた。 こういうところは躾がなっているというか、思いの外しっかりした態度を取れる光に感心する。誕生日プレゼントのついでに、この店の食事代はすべて俺が支払ったから。 「別に、お前のわがまま王子ぶりには慣れてるから構わねぇーよ」 「わがまま王子なんて失礼な、これでもみんなからはキラキラ輝く王子様だって言われてるだよ?」 ……黙っていれば王子様だが、コイツは悪魔だ。 そう思っても呟くことはなく、俺は苦笑いを零すだけ。 「さようでございますか、王子様」 「さようでございますよ。あ、ユキちゃん電車だよね?せっかくだから、改札まで送ってあげよっか?」 今日のデートにご満悦な光は、俺を見上げて尋ねてくるけれど。 「お前に送ってもらうほど、俺はひ弱じゃねぇーよ。それより、早く星くんにシュークリーム届けてやりな」 俺の家は、光の家の最寄り駅から快速電車でニ駅目の辺りで。普段なら車を出すんだか、今日は最初からなんとなく光の家まで行くつもりでいたため電車を利用した。 けれど、わざわざ送ってもらう必要性を感じない俺は、光の提案を断るとシュークリームが入った紙袋に視線を落としたのだ。 「バイバイ、ユキちゃん!」 ふわりと笑って、俺に背を向け猛スピードで走り去っていく光。さっきまで流れるように酒を飲んでいたヤツが、これだけ走れるなんて。 ……さすが、酒豪の王子様。 綺麗に包まれたシュークリームが箱の中で暴れていないことを祈りつつ、俺は俺で帰宅するために改札へと向かった。 滅多に乗ることのない電車の切符を購入し、駅のホームで電車を待って。ようやく乗ることのできた電車に揺られながら、窓越しの景色を眺めていると小さな公園で花見をしている人たちが目に留まった。 ……桜、か。 4月に入ったこともあり、どこの桜ももう散り始めているけれど。アイツの部屋から見た桜は、時の流れを感じさせないほど綺麗だった。 花見という名の飲み会をしているヤツらが視界から消えていき、俺の目に映る風景は次々に移り変わる。 しかし、脳内でカラフルに描かれる絵は今日の昼間の出来事だった。 今日、初めて会った男の子。 今日、初めて触れ、初めてキスをした相手。 それは光の弟で、俺はソイツに初恋をした。 ……らしい。 恋とか愛とか、俺には無関係だと思っていたのに。光に色々言われて、そうなのかもしれないと……確かに俺は、初恋をしているのかもしれない。 まだ、何も知らない純粋な男の子に。 クズなことは百も承知だが、俺はここまで変態になった覚えがない。男とキスをしても、気持ち悪いと思うことも、違和感を覚えることもなかった俺はおそらく異常者だ。 降りる駅に着いたとき、そんなことを思っていた俺は色々と考えることを止め、家へと向かって歩き出した。

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