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第23話

言われてみれば、そうかもしれない。 女の顔面偏差値にこだわったことはないし、そもそも興味がないから。 可愛い、と。 誰かを見てそんな淡い感情を抱いたのは、星が初めてだった。 「でもさ、キスしたってことは告白されたんだよね?その子とは、いつから付き合ってるの?」 俺が話している人物が自分の弟とも知らず、光は根掘り葉掘り話題を深めていくけれど。 告白はしていないし、付き合ってもいない。 キスをしたのは事実だし、その反応がものすごく可愛かったことも事実だが。 ……星は、男だ。 そこまで考え、俺は煙草を手に持ったまま硬直する。すると光は、まるで鈴を転がしたようにケラケラと笑って言った。 「好きだって相手に言われてもないのに、ユキちゃんから手を出したってことは、ユキちゃん相当お熱だね」 光の言葉で、止まっていた俺の脳は正常に作動を開始したけれど。自分でも結論が出ていない事柄に触れられ、俺は煙草の煙りを吸い込んだ。 「なんで俺から手出したってことになってんだ、んなコト話した覚えねぇーぞ」 「違うなら謝ってあげるけど、違わないでしょ?最初はどーせ、遊び半分くらいにしか思ってなかったんだろうけど。今じゃきっと、ユキちゃんのほうがその子に夢中なんじゃない?」 「……まぁ、違わねぇーけど。なんなんだよ、お前は」 煙草の煙を吐きながら、俺はへなへなとテーブルに頭を預けた。買い物には連れ回されて、勝手なことを言われ続けて。心身共に疲れ果てた俺が、内心もうどうにでもなれと投げやりになったとき。 「ユキちゃん、ごめんね……本当は応援してあげたいんだ、ユキちゃんの初恋」 「はつ、こい?」 初恋、そのキーワードは俺の中になくて。 テーブルと仲良くしつつも、視線だけを光に向けた俺を見つめながら、光は今日一番の真剣な顔をして俺にゆっくりと話し始める。 「ユキのことはね、高校からしか知らないけど俺が知ってるユキって自分から好きになった人が今までいないと思うんだ」 光が本気のとき、本心を語るとき。 真面目な話をするときにだけ、コイツは俺をユキと呼ぶから。 「でも、今日のユキはなんか今までと違う感じがするんだよ。だからもしかしたら、その子がユキの初恋の相手なんじゃないかって思ったんだ……まぁ、全部勘だけどね」 「マジ、か」 勘に頼った意見を肯定できるほど、今の俺には恋愛感情を云々言えるスキルはないけれど。 「頑張ってね、ユキちゃん」 もしも、光の言っていることが本当なら。 俺の初恋は、可愛らしい男の子になってしまう……って、いやいや、ちょっと待て。 抱いた女の数はそれなりだが、俺はゲイじゃない。男を見て欲情することはないし、そもそもそんなこと有り得ない。 と、いうよりも。 星は男なワケで、そんでもって光の弟で。 確かに外見も内面も可愛く思えたが、それは恋愛感情とは無縁の単なる遊び心ではないのか、俺。 そんなことを考えながら、星の料理がいいとブツブツ言う光を眺めて俺はとりあえず酒と料理を楽しむことに専念した。

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