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第22話
「……せいが作る料理の方が美味しい」
光の買い物に散々付き合わされ、ようやく俺が落ち着けたダイニングバーで不満を洩らすのは光だ。
「お前なぁ、自分でこの店がいいって言ったんじゃねぇーかよ」
「んー、そうなんだけど。せいが作る料理って食べると幸せな気分になるから、俺はせいが作ってくれる料理の方が好き」
そう言いながら光は、カシスオレンジの入ったグラスに口付ける。
シャレた外観を気に入り、この店にすると言い張って入店したのは光なのに。食事をし始めた途端、この店の評価は厳しいものとなった。
不味くもないが、美味くもない。
これなら俺が作った方が美味い、と……その思いを代弁するように、光が述べたことは間違っていないと思うけれど。
「……それで、外面だけは優しいユキちゃんのハートを射止めたヒトの話を聞こうか」
さらりと話題を変えた光は、俺に逃げ場を与えない。
「出会い方は?どんな子?年上?それとも下?キスとかしたの?クズなユキちゃんのことだから、もうえっち済みだったりして」
俺の話を聞くどころか、光は俺に質問攻めだ。
「いくら俺が、来る者拒まず去る者追わずで女と付き合ってきたからって、さすがに会ってすぐ抱くような趣味はねぇーから」
「ウソウソ、えっち済ってのは半分冗談だけど。ユキちゃん、キスはしたんでしょ?」
……半分が冗談なら、もう半分は本気なんじゃねぇーのか。
そうツッコミを入れる暇もなく、光の問いを躱そうと必死な俺は舌打ちをして。
「うっせぇー、お前には教えねぇーよ」
確かにキスはした、と。
心の中で頷きつつも、俺は曖昧な答えを返したのに。
「ユキちゃん、それ図星だね?」
「ハァ?」
クスクス笑って俺を見る王子様の勘があまりに鋭く、俺は溜め息とともに光を睨みつけた。
「ユキちゃんってば、嘘つくの下手すぎ。舌打ちするってことは、ハイそうですって言ってるようなもんだよ?」
心底楽しそうに笑う王子様からはどう足掻いても逃げられないらしく、俺は観念したようにテーブルの上に置いておいた煙草の箱に手を伸ばした。
「あー、まぁ、キスはした。これで満足だろ」
ゆっくりと吸い込んだ紫煙は微かに甘く、頭の中には星とキスしたときのことが蘇る。だが、今の俺には余韻に浸っている時間はないらしい。
「ねぇ、ユキちゃん。どんな子なの?」
次から次へと襲ってくる、光からの問い。
なんで俺は光にこんな話をしなきゃならいんだろうか、さっきから俺を揶揄って遊びやがって。
苛立ちは募るばかりだが、煙草は美味いから。誕生日を忘れていたことも含め、今日だけは素直になってやろうと思った俺は光に視線を向けた。
「年下で、すっげぇー可愛い子。会ったのは、たまたま、偶然」
詳しくは語れないが、嘘はついてない。
けれど、光は不思議そうな顔をすると俺にこう言った。
「……ユキちゃんが女の子のこと、可愛いって言うの初めて聞いた。いつも普通とか、微妙としか言わない男なのに」
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