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第31話
ファッションに疎いオレと、知識だけはそれなりにあるらしい弘樹。オレは母さんや兄ちゃんに与えられるがままに私服を着るけれど、どうやら弘樹はそうではないらしい。
ファッションブランドやスポーツブランドの話をしながら、オレと弘樹は学校まで向かって。
時々、オレは白石さんからLINEがきてないかスマホを確認したけれど。朝送った桜の写真には既読がついているのに、返信はこないままだった。
「セイ、なんか今日ずっとスマホ気にしてね?誰かから連絡でもくんの?」
「ううん、そういうんじゃないんだけど……」
兄ちゃんの友達って人からの連絡を待ってる、なんて。弘樹にどう伝えたらいいのか分からないオレは、言葉を濁すしかなかった。
結局、その後のオレは弘樹との会話を上の空で聞き流し、知らない間に学校まで辿り着いていた。
「セイ、終わったら連絡するから」
「……うん、よろしく」
弘樹と帰りの約束をして、学校の門の前で別れたオレは、自分の教室へと向かおうと昇降口で靴を脱ぐ。
「あ、あのっ……青月くん、だよね?」
すると、オレは知らない生徒に呼び止められてしまった。
「そう、ですけど……」
とりあえず、オレは返答したけれど。
誰だかさっぱり分からない人に声を掛けられ、内心オレはかなり動揺しているのに。
「あー、良かった。僕、同じクラスの西野 悠希(にしの はるき)っていうんだ。よろしくね」
オレを呼び止めた生徒は、どうやら同じクラスの男の子だったみたいで。オレよりも小さくて高めの声と可愛らしい笑顔に、オレは一瞬女の子なんじゃないかと思ったんだけど。
女の子が苦手……というより、女の子は少し怖いから。胸にはリボンじゃなくオレと同じネクタイが巻かれていて、しっかりとボトムスを着こなす男の子がそこにいることにオレは安堵して。
「えっと、よろしくお願いします」
そう言うと、オレは西野君にお辞儀をし、とりあえず二人で教室へ向かって廊下を歩いていく。
「まだ学校始まったばかりだし、僕と同じ中学の子が一人もいないから話す人いなくて。青月くん、すごくかっこいいからお友達になりたかったんだ。ごめんね、僕がいきなり声かけたからびっくりしたでしょ?」
驚いたことは確かだし、オレもクラスメイトのことはよく分からないから西野君の気持ちは少しだけ理解できるけれど。オレが今、何より驚いているのはそんなことじゃなくて。
……かっこいいって、初めて言われた。
憧れていた形容詞のひとつを西野君から貰ったオレは、内心すごく喜んでいる。でも、びっくりしすぎてどう反応したらいいのか分からないオレはお礼を述べることしかできなくて。
「ありがとう、西野君」
本当は、もっと他に伝えることがあるはずなのに。いざ伝えようと思うと言葉が出てこなくて、どうしようと悩んでいる間にも足は進んでいくから。
結局、会話らしい会話を楽しむ暇もないまま教室に辿り着いたオレと西野君は自分の席に腰掛けた。
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