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第32話
お互いに挨拶程度の話を交わせたところで、教室内に予鈴が鳴り響く。
西野君のことをもっと知りたいって単純に思ったけれど、オレは授業に集中しなきゃって思いに切り替え姿勢を正したんだ。
担任の先生が教室に入ってきて、一限目が始まる。
ジャージ姿で幸が薄そうな横島 昌人(よこしま まさと)先生は、オレたち調理学科の一年生の担任。ビジネスヘア風の髪型をワックスで整えることもせず、見るからにやる気のなさそうな先生で。
「出席取る代わりに、今日はお前たちに自己紹介してもらう……ってことで、そっちからスタート」
教卓の前に立ち、そう言った横島先生の言葉で教室内はざわつき始めてしまった。
こんな時、自分の苗字を無意味に恨んでしまう。当然のようにオレから始まる自己紹介、横島先生の目線とクラスメイトからの全視線を受けるオレは緊張して泣きだしそうだけれど。
「……えっと、青月 星です。その、これからよろしくお願いします」
発言とともに頭を下げると、どこからともなく拍手の音が聴こえてきて。少しだけ安心したオレは、このあとの他のクラスメイトの自己紹介に耳を傾けることができたんだ。
クラスメイトの自己紹介と、学級委員決めを行い、席替えをしたりして過ごした1日は長いようで短くて。学校生活を送る上で、基本的なことは高校生になっても今までとさほど変わりないように思った。
あみだくじで決まった席順は、幸運なことに列の一番後ろの席。おまけに、オレの前の席になった人は西野君だったから。
「来週から本格的に授業開始だね、また来週」
「うん、また来週」
最初はどうなることかと思ったけれど、なんとか1日乗り切れたオレに、西野君はヒラヒラと手を振って。オレより先に教室から出て行く西野君の背中を見つめ、オレも小さく手を振り返した。
西野君の第一印象は、とても可愛らしい男の子。オレより小柄な身長も、明るい表情も、小さな仕草も……オレと同じ性別だとは思えないくらいに、西野君は可愛いと思うんだ。
でも、西野君から見たオレはかっこいいらしくて。今朝のことを思い返しながら教室を出て廊下を歩くオレは、かっこいいって単語を頭の中で連呼する。
……そのとき、だった。
淡い色の瞳と柔らかい栗色の髪、オレに触れた唇がゆっくりと微笑んでいく姿が脳内で再生されて。煙草を吸う仕草も、ニヤリと笑う表情も、耳元で囁かれる声も、あのブルーベリー味のキスも。
よく分からないけれど、勝手に出てきた白石さんがかっこよく感じて溜め息が漏れていく。
オレがかっこいいと思う人は、白石さんなんだろうかと……そんなことを思い悩み、オレはふと思い出したことを確認するために、スマホのディスプレイを確認するけれど。
結局、オレが学校にいる間に白石さんから連絡はこなくて。なんだか寂しい気持ちになってしまったオレは、脳内で優しく笑っている白石さんを振り払うみたいに、一気に階段をかけ下りていったんだ。
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