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第36話

【雪夜side】 ……バイト、面倒くせぇー。 そう思いながら店内をふらついていた俺は、昨日取りおいてもらった星によく似たぬいぐるみを、バイト終わりに受け取りに行こうかと考えていた。 早目に取りに行かないと、取りおいてもらっていること自体忘れそうだからだ。 そんなことを考えつつも、平日昼間の比較的客入りが少ない時間を持て余していた俺は、聞き覚えのある小さな声に誘われていくけれど。 まさかと思いそちらを見れば、そこにいたのは星と知らない野郎で。昨日見たときと変わりのない制服姿の星と、同じ制服を少しだけ着崩した短髪の男子は、シューズコーナーの前で何かを探している様子だったから。 俺がいつもの営業スマイルで微笑みながら二人に声を掛けると、野郎の方が反応して俺に尋ねてきたけれど。あからさまに動揺している様子の星は、その男子の後ろで棒立ちして目を丸くしていた。 内心、驚いたのは俺も変わりなかったのだが……まずは仕事だと思い、俺はランニング用のシューズが欲しいと言った男子の要望に応えるために在庫の確認をして。 サイズの調整をさせてやり、やたらと話し掛けてくる男子の話を適当に流しながら店員の役目を終えた俺は、時が止まったような状態で立ち尽くしている星と遊んでやることにした。 俺の前に星を残して、店内をふらつき始めた男子の行動はどうかと思ったが。俺からすれば好都合な状況を作り上げてくれたことには、それなりに感謝してやって。 人形みたいに動かない星に俺から声を掛けてやったら、星は感情を取り戻したかのように反応してくれた。 俺がここの店員だってことと、LINEの写真の感想を直接伝えてやったら、真っ赤になって恥ずかしそうにしている星がすげぇー可愛く思えてならなくて。 今朝のLINEのことを気にかけていたらしい星が、俺の目論通りに俺からの返信を待っていたことを知った俺は、俺がわざと既読を付けたままLINEを放置していた事実を星に告げてやったのだ。 本当に星が俺のことを考えていたなんて……正直、嬉しい以外の言葉が見つからないけれど。一緒にいた男子のことを尋ねてみると、星はソイツのことを親しそうに下の名前で呼んでいて。 ……何故か、苛立つ俺がいた。 今日の夜21時に、星の家の近くのコンビニで待ち合わせ。泊まりの約束を強引に押し付けた俺だったが、星はキョトンとした顔をしながらも、大人しく俺の言葉に頷いた。 頷くしかない状況だったからだろうが、星の素直な反応は本当に可愛らしく思う。俺の手に残っている星の髪の感触と、僅かな温もり。 星といると、何故こうも触れたくなってしまうのだろう。昨日会ったばかりのヤツに、踊らされているような気分だけれど。 何故だか不思議なことに、悪い気はしない。 むしろ、心地良いくらいの緊張感と探究心に襲われているようで……って、ことはつまりだ。 この俺が初めて人に興味を持ったということに、俺は今更気がついた。 知りたくて、触れたくて。 俺の中に芽生えた謎の感情は、自分でも制御不能な衝動をもたらすけれど。それを振り払うようにして、俺はとりあえず仕事に集中することにした。

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