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第37話

だが、しかしだった。 ……なんつーか、無理矢理約束させてどうすんだよ。 仕事に集中できたのは僅かな時間のみで、客入りが疎らな店内を彷徨いていると自問自答の論争が始まってしまった。 星との契約は、紙の上で正式に行われたわけではない口約束なのに。アイツが俺のいいなりになったことも、今日の泊まりのことも……俺は、一体何を考えているのだろうと自分に問い掛けてしまうのだ。 星からしたら、俺は意味不明な変出者のように見えるのではないかとか。もし仮にそうだとしたら、俺は割とガチで凹むとか。 ただの口約束の契約なんて無視すればいいのにも関わらず、アイツがしっかり俺の言葉に従ってLINEを送ってきたことに、俺は気を良くしすぎたんじゃないかとか。 捉え方を変えてしまえば、アイツが俺に従うのは光が好きだから仕方なく従っているだけで……本当はかなり我慢して、嫌な思いを押し殺しているんじゃないかとか。しかし、そうだとしたらアイツのあの反応は何なのだろうとか。 普段は他人のことなんてどうでもいいと思うんだが、今だってそう思っているはずなんだが。星のことが気になりすぎて、俺は頭がおかしくなったらしい。 遊びのつもりで手を出したのは俺だし、それは現在進行形でアイツは泊まりにくるってのに。 来週の平日に、合コンがあるからシフトを代われと言いってきたバイト仲間とシフトをチェンジしたから明日は1日休みになったけれど。 問題は、アイツを泊まらせて俺はどうしたいのかってことで。簡単に泊まりって話をしてしまったが、俺はアイツをどこに泊まらせる気でいるのだろう。 他人を家に入れる気などないんだが、さすがにまだ幼い星を連れてホテルに行くわけにはいかない。 ……というより、俺はマジで何がしたいんだ。 バイトは、夜の19時まで。 その後、ぬいぐるみを受け取りに行って家に何もないから買い物もしなければ、俺は夕飯にありつけない。待ち合わせ時間の21時までに、俺は予定している行動をして星を迎えに行かなきゃならないから。 後先考えずに指定した時間は、なんともハードなスケジュールと化してしまった。 21時までに間に合うのだろうかと思う俺と、間に合わせるしかないと思う俺。どちらも俺の考えなのに、脳内で意見が割れる二人の俺は右往左往して。 「すみません、この商品探してるんですけど……」 「……はい、ご案内致します」 仕事中だということを完全に忘れていた俺は、気の抜けていた表情から爽やかに笑って営業スマイルを心掛ける。 ただ笑っているってのも、結構疲れるもんだ。 接客業は笑顔が基本だというヤツもいるのかもしれないが、貼り付けた笑顔を振り撒くのが当たり前なサービスは如何なものかと思う。 だが、それも仕事のうちだと言われればそれまでだ。笑っていれば金が受け取れるのなら、バイトの俺は笑うしかなくて。 長く感じていたバイトの時間も、星と会ってからの残りの時間はあっという間に過ぎていった。

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