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第46話
「食べたいなら作ってやるし、なんならレシピ教えてやっから、一緒に作ってみるか?」
嬉しすぎる提案を、断る頭はオレにない。
白石さんがオレより料理上手なことには驚いたけれど、それは良い意味でのサプライズのようで。
「ご迷惑じゃなければ、よろしくお願いしたいです」
オレは白石さんに向かい、そう言ってぺこりとお辞儀をする。
「お前って本当、可愛いヤツ」
下げた頭の上に乗る白石さんの手、わしゃわしゃと髪を撫でられていると、オレの頬は自然と緩んでいった。
ご飯を食べ終えたあと、白石さんはシャワーを浴びに浴室へ消えてしまったけれど。使い終わった食器類やキッチンは綺麗に片付いていて、オレには甘めのホットココアを用意してくれたんだ。
白石さんがお風呂から出てくるまでの間、オレはふかふかのソファーでテレビを観ながらココアを飲んで。自分でもびっくりするくらいに、白石さんの家で寛いでしまっていることに気がついた。
生活感はあるけれど、無駄な物はない白石さんの家。インテリア雑誌に掲載されていそうなくらい整理整頓されている室内は、オレに安らぎを与えてくれて。
ぼんやりとテレビを見ていても、オレの頭の中は白石さんのことで埋め尽くされていた。
拒否権がないとか、誘拐されたらどうしようとか。白石さんと話してるうちに、そんな不安はどこかにいってしまったらしい。
ドライブもお泊まりも、すごいドキドキしてるのに。白石さんと話していると、何故だか安心してしまう。
ドキドキするのに、安心もする。
こんな不思議な気持ちになったことは、今までに一度もないのに。
それどころか普段のオレは人見知りで、初対面の人と話していても会話が弾むことなんてないんだ。でも、白石さんとはたくさん話もできるし、無理をして話を合わせることもないのはどうしてなんだろう。
……白石さんって、不思議な人だ。
スポーツショップの店員さんで、兄ちゃんの友達で、サッカーをやっていたらしくて、料理上手で、たぶんかなりの綺麗好きで、四人兄弟の三番目。
最初はとても不審だったし、かなり意地悪な人だと思った。それは今も変わらないのかもしれないけれど、少なくとも今のオレは最初に感じた白石さんの印象とは違うイメージを持っているんだ。
優しく笑ってくれたり、頭を撫でてくれたり。
真面目なときは真剣に向き合ってくれるところとか、さり気なくオレのことを気遣ってくれるところとか。
一見すると、かなりやんちゃそうな人だけれど……いや、実際にやんちゃなのかもしれないけれど。でも、醸し出している雰囲気はどこか気怠い感じがして。見た目よりも落ち着いた態度で接してくれる白石さんに、オレはどんどん魅了されている気がする。
よく分からない出会い方をして、よく分からない契約を結んで。白石さんに言われるがまま、オレは泊まりに来ちゃったけれど。
居心地は悪くない、というよりむしろ良くて。
白石さんが食後に吸っていた煙草の香りがほんのり残る室内は、自然とオレに白石さんのことを考えるように促しているみたいだった。
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