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第49話

結局、星のことを考えながらシャワーを浴び終えた俺は、寝巻きに着替え部屋へと戻る。すると、ソファーに凭れかかりクッションを抱き締めて眠っている星がいて。 ……クッソ可愛い、丸まって寝る仔猫みてぇーだ。 思ったことが口から出そうになり、俺は思わず息を呑んだ。 周りから可愛いと言われチヤホヤされている女を見ても、可愛いと感じることはないのに。それがどれだけ美人でも、興味が湧くことすらないのに。 俺の目の前にいる星は、意図も容易く俺のそんな心を動かしてしまって。 「……星?」 頭ではこんなこと有り得ないと分かっているのだが、俺はどうやらニ度目の衝動を抑えることができずに、星の名を呼んでそっと前髪に触れていた。 艶やかで質のいい髪を優しく掻き分けてやると、前髪で隠れていた額が露わになるけれど。星は起きる気配がなく、スヤスヤと眠っているままで。 穏やかな寝顔を眺め、俺はちょっとした遊び心で星の額にキスを落としてみたんだが。星の瞳はしっかりと閉ざされた状態から変わることがなく、クッションを抱く手に僅かな力が加わっただけだった。 丸まっている姿は愛らしいが、このままソファーで夜を明かすのは不憫に思えてならないから。俺は眠っている星をゆっくりと抱きかかえて、ベッドへと移動させてやった。 起こさぬように気を配り運んだことも関係しているんだろうが、それにしても起きないヤツだ。 安心した様子でクッションを抱き、ベッドの上に移動しても膝を丸めて眠る星の姿を見ていると、本当に仔猫を眺めているような気分になって。 俺はしばらくの間、ベッドに腰掛け星の寝顔を眺めることにした。 煙草を咥え、火を点けて。 明日の朝は、何を作ってやろうかと考える。 明日の朝食用としてパンは購入したけれど、この仔猫が米派なのか、パン派なのか、俺は訊くのを忘れていた。俺は基本的に朝はパン派なんだが、コイツが起きてから訊いて作ってもいいだろうと。 そんなことを思いつつ、甲斐甲斐しく世話を焼く気でいるらしい自分に、自嘲の笑みは漏れていくばかりで。 「無防備過ぎんだろ、コイツ」 星は女と違うから、俺が同性だから。 通常であれば、コイツが俺を警戒しないのは当たり前ことなのかもしれないけれど……昨日の出逢い方に然り、口約束の契約に然り。 コイツは俺に何されても拒否できない立場でいるにも関わらず、目の前で爆睡している事実が俺から正常な判断を奪っていくようだった。 俺以外が眠ることは許されないはずのベッドで、幸せそうに寝ている仔猫。 有り得ない状況と、有り得ない心情。 家に連れ込んだのは俺だし、ベッドまで運んだのも俺で間違いはない。しかしなぜ、俺はコイツに快く許可を出しているのだろうか。 ……なんで、コイツならいいって思えんだよ。 全ては俺が招いたことなのに、理解不能な己の言動を振り返ると腹が立つ。 普段通りの俺がどんなヤツだったのか、それは俺が一番よく理解しているはずなのだが……昨日会ったばかりのヤツに脳内を埋め尽くされていく感覚は、今までに感じたことない想いで溢れていくばかりだ。

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