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第56話

一生を添い遂げる覚悟なんて、今の俺にはない。たった2日でそんな覚悟ができるのなら、俺はランに連絡なんてしない。 アイツは料理人になりたいって、さっき将来の夢を俺に話してくれたばかりだし。先のことなんて、俺にも誰にも分からないし。 けれど、それでも。 『それでも、男を抱きたいと思う?』 俺は、単に男を抱きたいワケじゃない。 星だから触れたくて、アイツだから大切にしてやりたいと思うから。この想いに自らラベリングした俺は、これから先、どう足掻いても、後戻りすることはできないだろうけれど。 「俺はッ……」 言いかけた言葉の続きは、声にならなかった。 『本気、なのね。貴方がそのつもりなら、その相手とたくさん悩んで、二人で答えを出しなさい。雪夜……私は貴方が好きだから、貴方が苦しむことは極力避けてあげたいの。私にできることなら、いくらでも力になってあげるわ』 頼るべき相手は間違っていなかったようだが、俺には今後のプランなんてものはなくて。優しさをみせるランに、俺は2日間の全てを語り、そうして15分が経過して。 『変態、最低、クソ野郎!!』 俺は、見事に罵倒された。 「お前なぁ、さっきまで俺のこと好きとかなんとかほざいてたじゃねぇーか」 『オカマを怒らせると怖いのよっ!!』 「あーそ」 俺に自覚がある分、ランからどれだけ罵倒されても効き目はイマイチだけれど。突っかかっていくのは面倒に感じて、俺は軽く受け流す。 『……あの光ちゃんの弟くんってことは、雪夜は光ちゃんに殺されても文句言えないわね』 呟いたランの意見はごもっともだが、そうは言ってもこればかりはどうしようもなくて。 「っつってもよ、気に入っちまったもんはしょうがねぇーじゃん」 だからどうした、と。 半ば開き直るしかない俺は、自分が思っている以上に無力であることを痛感している最中だっていうのに。 『しかも弟くん、光ちゃんのことがまだ好きなんでしょ?それなのに、どうして雪夜が手を出してるのっ!!』 うるさいオカマ野郎の言葉は止まることがなく、理由の追求を始めたランはウザイことこの上ないけれど。 「なんつーか、あまりにも可愛いから。それにアイツ、嫌がるどころか感じてたし……手出したっつっても、俺まだキスしかしてねぇーから」 一線を超えたわけではないし、望んだのは星の方だから。そう俺が若干の語弊を訂正しても、ランは納得していない様子で。 『そういう問題じゃないわよっ!!会ってまだ2日でしょ!?高校生になったばかりの、何も知らない男の子にっ!!』 「まぁ、それは事実だから否定しねぇーけど。こういうもんに日数なんて関係ねぇーだろ、俺はそこまで紳士じゃねぇーし」 『それはっ、そうかもしれないけど。でも、弱味握って脅してまでその子と繋がろうとするなんて……貴方、本当に重症よ』 そう言ったランは大きな溜め息を吐き、電話越しでようやく大人しくなった。

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