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第57話
恋とか、愛とか。
恋愛感情を抱えたヤツらは、みんな重篤な病いになるのかと。ランの言葉を素直に受け取った俺は、そんなことを考えたが。
「……初めて、俺から触れたいって思ったんだよ」
『雪夜……』
「変態なのも、最低なのも、クソ野郎なのも分かってんだ……でも、傷つけちゃいけねぇーって思った。俺の手で大切にしてやりたいって、俺にそんな淡い感情を持たせてくれたのは、アイツだけなんだ」
俺が求めるのは、アイツしかいない。
それがたとえ出逢って2日目だとしても、男だとしても、ダチの弟だとしても。
俺が初めて惚れた相手は、星だから。
そんな想いを乗せて呟いた言葉はおそらく、好きと同じ意味を持つのだろう。
『……電話越しに、そんないい声で告白しないでもらえるかしら?』
「何言ってんだ、お前」
『いくら最低でも、惚れ直しちゃうでしょ』
「うるせぇーよ」
できれば他人には公開したくない話を、俺は自らランに告げてしまったけれど。恥を感じている暇はなく、俺はランの声を聞く。
『明日、時間があるなら弟くんと二人で店にいらっしゃい。どうせ今、貴方のところにいるんだから。貴方が惚れた相手を見ておきたいし、単純に私その子に興味あるから』
「とって食うなよ」
『それはどうかしら?』
「……クソオカマ野郎」
『そんなこと言うと、弟くんを満足させてあげられる男同士のやり方、教えてあげないわよ?』
上から目線なオカマ野郎に頭が上がらないのは辛いが、ここで俺が吠えたところで良い結果は期待できない。今は我慢するしか術がない自分が情けなく思えるけれど、それが現実だから。
「……明日、家出る前に連絡入れる」
『それでいいのよ、雪夜。明日、待ってるわ』
ランの指示を素直に俺が受け入れると、ランは心底嬉しそうな声を残して通話を終了させた。
ベランダで独り、スマホを手にし佇んでみても。春の夜風に晒されるだけで、カラダの変化は特にないのに。ランと話し終えた途端に心がやけに重く感じるのは、俺が僅かな覚悟を決めたからなんだろう。
俺が物事を深く捉えていなくても、人の心は如何なる時も流動的で常に移り変わる。それを身をもって実感しつつ、俺は星を起こさないようにゆっくり部屋へと戻った。
俺のベッドの隅っこで丸まって眠ている仔猫の姿は、暗闇の中でも確認できて。星が一人で寝てもこんなに余裕があるのなら、一緒に寝てやってもよかった……なんて、焦る気持ちを押し殺し俺はソファーに寝転んだ。
明日は、星が起きたら一緒にオムレツを作ろう。朝食を摂ったら部屋の掃除をし、昼過ぎくらいにランの店に向かうとして。もし時間が取れるようなら、星を連れて桜でも見に行こうと。
たぶん、まだ桜が散っていないはずの場所を思い浮かべて、俺は明日のプランを練るけれど。
思いの外、俺の身体は疲労を蓄積しているらしく、俺はさまざまなことを考えながら眠りへと落ちていった。
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