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第58話

【星side】 色んなことがあって、気持ちは全然追いつかないけれど。オレは、いつもと違うベッドでも、ぐっすり眠ってしまったらしい。 清々しい朝、なのかは分からないけれど。 ぼんやりと瞼を開けると、朝だということを認識できる自然の光があって。しっかり閉ざされているカーテンの隙間から、柔らかく覗く陽の光はキラキラしていて綺麗だった。 そこから視線はゆっくりと移動していき、ふとソファーの方に目をやると。そこには、気持ち良さそうに眠っている白石さんの姿があったんだ。 なんでもできて大人なイメージだけれど、寝顔は幼くて可愛いらしい白石さん。そのギャップに驚きを感じつつも、オレはソファーで眠っている白石さんをじーっと眺めてしまう。 オレは昨日の夜、この人とキスをして。 今はブランケットを抱いている腕の中に、オレがいたんだって……思い出したら急に恥ずかしくなって、オレは独りで赤面する。 白石さんに抱きしめられてすごく心地よかったことも、眠りにつくときも側にいてほしいなんて思ってしまったことも。今は気にしないようにしようと決め、オレは全力でオムレツのことだけを考えるようにしたんだけれど。 オレが脳内をオムレツでいっぱいにしていると、白石さんが目覚めてしまったようで。まだ眠そうな力ない瞳に、オレは捕まってしまったから。 「あの、おはようございます」 「……はよ、お前いつから起きてた?」 とりあえず朝の挨拶をしたオレは、急いでベッドから降りると白石さんの足元ら辺に腰掛ける。ついさっき起きたばかりだけれど、ドキドキしているのを知られたくないオレは必死で平然を繕った。 「白石さんが起きる少し前に、起きたばかりです。それより、キッチンお借りしてもいいですか?」 「ん、あぁ……良いけど」 なんとも気怠そうな返事をしながら、白石さんは身体を起こしてソファーの上で胡座をかく。自分から白石さんに近づいておいてなんだけれど、近くで見る白石さんはやっぱりかっこよくて。 「……オレ、オムレツの準備してますね」 白石さんはまだ眠そうだし、オレのドキドキは止まらないし……理由を付けてキッチンに立てば、オレは白石さんに顔を見られなくて済む。 そう思ったオレは白石さんから離れて、持ってきた荷物の中からヘアピンを取り出した。 「もう少ししたら俺も起きるから、目覚めの一本だけ吸わせて」 ヘアピンで前髪を留め、キッチンに向かうオレの背中に掛けれた言葉は白石さんらしいもので。ちょっとだけ安心したオレは、失礼しますと呟きながら冷蔵庫の扉を開けた。 けれど、オレが覗き込んだ世界はオレの想像を起こしていたんだ。 ……すっごく綺麗だし、食材も揃ってるって白石さんは本当に何者なんだろう。 冷蔵庫の中は、その人の性格や状態を表すって何かの雑誌で読んだことがあるけれど。ソファーの上で面倒くさそうに煙草を吸っている人がこの冷蔵庫の使用者だなんて、冷蔵庫の中だけを覗いた人には想像もつかないだろうと思った。

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