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第59話

冷蔵庫と向き合って数秒、そのうちセンサーが鳴り響きそうなほど凝視した食材たちをオレは素早く取り出すと、スープとサラダを作るために食材を抱える。 オムレツを作る準備もしなきゃいけないけれど、せっかくだからちょっぴり優雅な朝食を作りたくて。食べ物のことになると自分勝手になってしまうオレは、白石さんに許可を取るのを忘れて調理を進めてしまう。 悪い癖だと分かっていても、オムレツの誘惑には勝てないから。オレは料理に集中するあまり、白石さんがオレの後ろに立っていたことに全く気づかなくて。 「……うわぁっ!?」 オレの頭上に何かが落ちた感覚がし、オレはびっくりして声をあげてしまうけれど。 「ん、何作ってんの?」 落ちてきたのは白石さんで、いや、正確にいうなら白石さんの顎がオレの頭に乗っていて。後ろから抱きしめられている状態のオレは、逃げ場がなく焦るばかりだ。 「あの、えっと……オムレツ作るなら、モーニングらしくサラダとスープもほしいかなって……食材、勝手に使っちゃってごめんなさい」 中途半端にカットされた食材が、まな板の上で泣いている気がする。本当はオレじゃなくて白石さんにカットされたかったって、そう悲鳴を上げているように思えるのは、白石さんからの返答がないからなのに。 「……お前って、本当いい子だな」 怒られしまうんじゃないかと内心怯えていたオレは、白石さんの言葉を聞いて首を傾げてしまった。 「どうして、怒らないんですか?」 「怒る理由がねぇーから」 「へ、なんで?」 許可なく冷蔵庫をあさって、おまけに勝手に調理を開始して。オレはいい子と程遠い行動を取っているのに、白石さんはふわりと笑ってオレの頭を撫でてくれて。 「オムレツ、楽しみだったんだろ。それに、俺もどうせ作るなら贅沢なモーニングの方がいいしな。今切ったソイツはスープにして、こっちの食材でサラダ作ろう」 薄くスライスした玉ねぎはオニオンスープに、そしてまだ手を付けていないトマトやキュウリはサラダに……って、迅速で的確な指示をくれた白石さんはオレから離れると手洗いを始めた。 ……本当に、一緒に作ってくれるんだ。 白石さんの言葉を信じていなかったわけじゃないけれど、オレは半信半疑だった部分もあったから。 白石さんの結ばれた髪も、手を洗う行動も。 オレの隣に立ってスープ用のお鍋を準備してくれることろも全部、本当だったんだってオレは思った。 「とりあえず俺は玉ねぎ炒めるから、お前はサラダの支度してくれるか?」 「分かりました、頑張ります」 二人で立つと小さく見えるキッチンでも、白石さんと一緒に話しながら朝ごはんの準備をするのはとても楽しく感じて。部屋の中に漂い始めた炒め玉ねぎの香りは、オレの食欲をそそる。 オレの家では基本的に朝は和食中心だから、滅多に食べれない洋食の朝ごはんにオレの心は弾んでいくはかりだった。

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