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第60話
手際のいい白石さんと二人で作っているからか、副菜はあっという間に完成して。残るは、メインのオムレツを作る工程だけなんだけれど。
「とりあえず、先に俺が作るの見とけ。俺が作ったやつはお前に、お前が作ったやつは俺が食うから」
そう言いながらも、白石さんはオレの中では難しいとされているオムレツを意図も容易く作り上げてしまったんだ。
「すごいっ、美味しそう!」
フライパンの上に真っ白なお皿を被せて、白石さんがその上下を反転させるとオムレツがふわりとお皿の上に乗って。出来上がったオムレツを前にし、オレの気持ちははしゃいでいくけれど。
「さて、次はお前の番だな」
「……オレ、こんなに綺麗に作れる自信ないです」
白石さんの前でスクランブルエッグを作るわけにはいかないし、でも成功させられる自信もないし……いざ自分の番がやってきた途端、オレは尻込みしてしまった。
「自信ってのは後から付いてくるもんだし、できるかどうかなんてやってみなきゃわかんねぇーだろ。手助けはしてやるから、大丈夫だ」
優しく笑う白石さんにそう言われて、オレは恐る恐るフライパンを握る。熱したフライパンにバターを入れ、次に卵を流し入れて。白石さんがやっていたように、卵をフライパンの奥に寄せていく。
問題は、ここからだ。
フライパンの柄を持ち上げて、白石さんがやっていたみたいにオレもトントンっとやってみる。
でも、やっぱり。
「白石さん、卵が回らない」
見様見真似でやってみても、オレの卵は白石さんが作ったように動いてはくれなくて。段々と加熱され、オムレツから遠ざかろうとする卵を見つめ、オレは白石さんに助けを求めた。
「んな顔すんな、大丈夫だから。叩く場所が悪いだけだ……っと、そのまま動くなよ?」
できない自分が情けなくて、悲しくて。
しょんぼりするオレの後ろに立った白石さんは、フライパンの柄を持つオレの手に自分の手を重ねていく。
……近い、距離が近い。
気にしないようにしようと思うけれど、身体は密着しているし、オレの手は白石さんに触れられているままで。ドキドキしてしまう気持ちを白石さんに知られないよう、オレは卵の動きに集中した。
フライパンを握る位置を少しずらして、僅かに揺すってトントンって白石さんと一緒にフライパンの柄を叩いてみると。
「あ、すごいっ!回った!!」
「あとは盛り付けだな……ん、皿被せてひっくり返せば完成だ」
仕上がりは白石さんほど綺麗じゃないけれど、それでもオレは初めて失敗していないオムレツを作ることが出来たから。
最後の最後の最後まで、オレは白石さんに手取り足取り教えてもらいながら慎重に盛り付けていく。
そして。
「できたっ!!」
自分でもびっくりするくらいに喜びの声を上げたオレだけれど、白石さんはオレ以上に嬉しそうに微笑んでくれて。
「良かったな、星」
白石さんはそう言うと、よしよしとオレの頭を撫でてくれたんだ。それが無性に嬉しくて、ご褒美みたいだなって思ったオレは、出来上がったオムレツを前にし、白石さんと二人で笑い合っていた。
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