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第78話
【雪夜side】
朝起きて、アイツと幸せな時間を過ごして。
ランの店へ行ってから近くの公園で桜を見たあとは、遅くても21時までにはちゃんと家に送り届けてやるつもりだった。
泊まりの約束は1泊2日、明確に指定はしていないものの、星も俺もそのつもりで動いていたはずだったのに。
家に帰さなければならない相手を連れ去るように、俺は元いた俺の家に車を走らせた。
ランの店では、幸せそうであれだけ笑顔だったのに。公園の桜がはらはらと舞っていくのを見つめていたアイツは、急に泣き出しそうな顔をした。
可愛ければ、キスできるのかと。
可愛ければ、誰にでも優しく接するのかと。
そう俺に問いただしてきた星は、つい3日前まで光に向けていたはずの揺れる瞳を俺に向けていたのだ。
必死で縋るように、俺を深く知ろうとするアイツの真っ黒な瞳に捕らえられた俺だったが。星は光が好きなんだろうと、俺をこれ以上知る必要はないだろうと。
そんな思いを込め、俺はアイツを突き放そうとしたのに。
『……白石さんは、オレが拒否権ない代わりに、全部教えてくれるって。白石さんの全部、教えてくれるって言ったじゃないですかっ!!』
星は俺に、そう言ったのだ。
高校生の子供に煽られ、真剣な眼差しを向けられて……軽くあしらうことすらできない自分の余裕のなさに恥を感じつつも、俺の手は星へと伸びていた。
ボソボソと話す星の言葉を否定しつつ、俺はアイツの唇を奪って。煙草の灰が落ちる前に、足で踏んで火を消した。
なるべく表情を見られないように、そこから気持ちを悟られぬように。星の肩に頭を乗せ、俺は本心を語る決意を固めた。
俺の初めてはお前だけだと、初めて自分から触れたいと思う人に出逢えたと……俺は、そう伝えたのだが。
正直に話した内容を、嘘だと言われて苦笑いが漏れた。
色々と話してやりたいことはあったのに、それを邪魔した雨に濡れたカラダは冷えていく一方で。
家を出る前に、天気予報くらい確認しておけばよかったと。そう思いながら星の頭にジャケットを被せ、アイツが離れないように手を握り、俺は早足で車まで戻っていたのだ。
一瞬で本降りになった雨に打たれた俺と星は、急いだ結果も虚しく、ずぶ濡れになってしまって。
寒そうにしている星を抱き寄せ、少しでも体温が上がるように俺は強引にアイツの唇を奪っていた。しかし、抵抗することもなく、星は俺を受け入れたから。
漏れる声に、吐息に、濡れたカラダに。
アイツのすべてに、欲情していく俺がいた。
今までとは違う、確実に深まるキスを止めてやることができなかったけれど。唇を離し、苦しそうに息を吐く星に呟いた本音。
あのまま離したくはなくて、もういっそうのこと連れ去りたかった。自分の情けなさに恥を感じる隙もないほどに、目の前の存在だけをただ求めていた。
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