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第82話
ぐすん、ぐすん。
人が泣く時の独特な鼻を啜る音と、乱れた呼吸を必死で整えようとする息遣い。その二つが交互に音色を奏でていた中で、星はポツリと俺を呼ぶ。
「……白石、さ、ん」
「んー、どーした?」
「ティッ、シュ……ぅ、くらさ、ぃ」
完全に涙が止まったわけではなさそうだが、取り乱したときよりも些か落ち着いてきたらしい星は、ティッシュが欲しいと訴えてきたものの、俯いたまま俺から離れようとして。
俺に縋っていた手が遠ざかっていくのが、なんとなく気に入らなく思えた俺は、俯いている星の顔を無理矢理覗き込んでいた。
「……お前、可愛いすぎ」
「うわっ?!」
その、瞬間。
俺の口からは本音が漏れ、真っ赤な瞳で顔をぐちゃぐちゃにした星を抱き寄せる。そうして、俺は堪えきれずに星をソファーに押し倒していた。
「白石さんっ、ティッ…しゅ…」
それでも、俺の下でジタバタともがいてる星は俺の感情などお構いなしらしい。
本来なら見せたくなかったであろう星の泣き顔に欲情し、理性を一瞬で手放してしまった哀れな野郎の気持ちなんざ、この可愛いらしい仔猫が察してくれるハズがねぇーから。
「そんなもん、俺の服で適当に拭いときゃいいだろ……こうして、俺がお前を抱けば一緒のことだしな」
「いや、でもっ…ちょ、ンッ」
涙も鼻水も、星が気にしているすべてのことなど俺は気にしない……と言うより、俺を求めて泣いてくれるのならその方が好都合だ。
浅はかだと反省したはずの感情、けれど俺はまた、意図も容易くこの欲に負けてしまう。特別な存在だと認識し、大切にしたいと思ったのは嘘じゃないのに。現在進行形で、その思いはしっかり心の中で根を張っているはずなのに。
俺に縋り泣いていた星の表情を確認した途端、愛おしさが溢れ出してどうすることもできなかった。大切な存在が俺を求めて涙を流すのなら、俺が選ぶ選択肢は一つだったから。
「あっ、ん…はぁ」
すらりと伸びた星の太腿に優しく触れると、星の口から甘い声が漏れる。くすぐったいとでも言いたげに、股を閉じようと身を捩る星だが……コイツが動けば動くほど、もがけばもがくほど、見えてはいけない部分が徐々に露わになっていくのが分かった。
ただ、ソコに目を向けるのはまだ少し早い気がして。太腿を通り越し、手の感覚だけで星のモノに触れることを選んだ俺の口元は、ニヤリとほくそ笑み、星の耳を甘噛みする。
「ひぁッ、ン…ぁ…あのっ!」
「ナニ?」
俺からの刺激に反応するカラダと、それを認めることができない羞恥心。言いたいことは沢山あるんだろうが、今の俺に何を言っても無駄だ。
「……酷くしねぇーし、怖くもねぇーから、大人しくしとけ。あー、けど、お前が恥ずかしく思うのは、どうにもなんねぇーよ」
「ゃ、あ…そんなっ、んぁ」
赤く腫れた瞼、それが今はどこか艶めかしく震えている。片目を瞑り、誘うような視線を俺に向ける星はおそらく、この先の快楽を知らない。
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