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第88話
【星side】
真っ暗だった視界、夢の中を漂うように意識をどこか遠くまで手放して。眠っていたオレを起こしてくれたのは、眩しく感じるほどの陽光だった。
さらさらと頬を撫でていく優しい風に、レースのカーテンがふわりふわりと揺れている。外から入ってくる暖かい光と穏やかな風、気持ちが良すぎるくらいの目覚めにオレはクスっと微笑むと、肌触りのいいブランケットに頬を寄せた。
オレの部屋の間取りじゃない、オレの部屋にある家具はない、オレの匂いがする布団もない、けれど。なぜだかとてもよく眠れる白石さんの家のベッドは、目覚めたばかりのオレを快く受け止めてくれて。
「……あぁ、起きたか」
「あの、おはようございます」
白石さんは、オレより早く起きていた。
ソファーに座って煙草を吸っていた白石さんだけれど、オレが白石さんに向かい朝の挨拶をすると、白石さんはオレの元まで来てぽんぽんと頭を撫でてくれたんだ。
「ん……」
白石さんの匂い、ブルーベリーの煙草の匂い。
妙に落ち着く香りを放つ白石さんは、香水をつけないって言っていたけれど。
大泣きしてしまったオレを抱き締めてくれていた昨日の白石さんは、お風呂上がりで煙草を吸っていなかったのに。ブルーベリーとは違う、とっても甘くていい匂いがした。
その香りの正体を、きっとオレは知っている。
昨日が現実だったなら……その、なんだかとてつもなくエッチなことをされた記憶が間違っていないなら。たぶん、あの、そういうことなんだと思う。
ぐっすり眠ったからなのか、心地よい目覚めだったからなのか。頭と身体はスッキリしているのに、昨日を思い出してオレは顔を赤くしてしまうけれど。
「お望み通りサンドウィッチ作ってやったから、とりあえず起きたらどうだ?」
白石さんは耳元でそう言うと、オレにふわりと笑いかける。オレはその優しい笑顔につられて……というか、お腹の減り具合には勝てなくて。オレは、あっさりベッドから抜け出すことにした。
身体を起こして、小さく伸びをして。
部屋全体を見渡しながら、オレは一旦トイレに向かった。そして、すっかり忘れていたある事実を目の当たりにする。
……下着、先に履いてくればよかった。
トイレに到着するまでの数歩で、昨日びしょ濡れだった服が洗濯され綺麗に畳まれて、ソファーの上に置かれていたのをオレは確認したはずだ。それなのに、オレはテーブルの上のカフェオレと美味しそうなサンドウィッチに心を奪われてしまった。
目の前の食事より、下半身の違和感を気にしていれば……そしたら、こんな思いはせずに済んだかもしれない。
恥ずかしさと、申し訳なさと、照れくささが入り混じる感情は急激にオレの頬を染めていく。
オレの下着まで洗濯して、わざわざランドリーに乾かしに行ってくれた白石さんのことを思うと、どんな顔をしてトイレから脱出すればいいのか、オレは分からなくなってしまったんだ。
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