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第99話
俺は星を抱きしめたまま、黙って話を聞いている。
「せいが俺のこと好きなのは、ずっと前から気付いてた。でもせいが好きなのは、お兄さんとしての俺であって、男としての俺じゃないんだ」
「え?でも、オレ兄ちゃんのことずっと……」
「せいはね、そのことに気付いていないだけだったんだ。俺に対しての好きは、尊敬と憧れ。恋とか愛とか、そういう意味の好きじゃないんだよ」
俺から離れることなく、光の顔を見ることもなく、時折り鼻を啜りながら星はちゃんと受け答えする。その様子に安堵しているのは光も変わらないらしく、語り掛けるような穏やかな声色が室内に響いていく。
「だからせいに、本当に好きな人ができたとき……俺への想いがせいの気持ちの邪魔にならないように、ユキちゃんに頼んで協力してもらったんだ」
光には、光なりの想いがある。
星を大事に想う、兄貴としての光の考え方。その気持ちを尊重し、俺も光に手を貸す形でこのようなことになったけれど。星本人がこの事実を受け入れられるのかは、光の話術次第だと思った。
「ユキがせいと関係を持っていることも、ちゃんとわかってる。その上で、せいにはちゃんと自分の気持ちに気付いて欲しかったんだ。酷いやり方をしてごめん……でも、せいはちゃんと自分で気づくことができたね。せいが選んだ相手は俺じゃない。今、せいを抱きしめてくれているのは誰かな?」
「……白石、さん」
光の問い掛けに、星はゆっくりと顔を上げる。
そして小さく、俺の名を呼んだ。
「そう、それがせいの本当の答えなんだ。色々素っ飛ばして、手荒い真似をして本当にごめんね。でも俺、せいのことは大好きだよ、兄弟として。それは、俺もせいも同じだから」
さっきまで冷徹な顔をして弟を押し倒していた兄とは思えないほど、光は心を込めた微笑みで穏やかに笑う。
「あとね、ユキはせいのこと、セフレだなんて思ってないから安心して。女の人を抱いていた過去は嘘じゃないけど、来る者拒まずの付き合いだったから。基本的に、この男は人に興味ないし……でも、そんな男が夜中にわざわざ俺のところに来たんだよ、ほんと笑っちゃう」
「お前、それは言うな」
星への謝罪を含めた状況説明だと解釈し、俺は黙って話を聞いてやっていたというのに。相変わらずペラペラと動く光の口は余計な発言ばかりでイヤになる。
星が俺を求めていたことに安堵したのも束の間で、俺は心の内で光の話にうんざりしているのだが。
「ユキは、俺にせいへの想いを話してくれたよ。せいのためを思って、包み隠さず全部ね。独占欲の欠片もなかった男が、キスマだってつけちゃうんだから。まだ出逢って3日しか経ってないのに、どうしたらそんなに想えるのってくらいユキはせいに惚れてる。せいはさ、その気持ちに応えてあげられるかな?」
惚れたとか、好きとか。
そういった類いの話は、まだ俺から星に話していない。告白らしい告白をする暇がなかった、と言った方が正しいのかもしれないが……それにしてもこの男は、本当に色々とすっ飛ばしていく野郎だ。
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