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第100話

俺は光の発言に苛立ちを感じているが、問い掛けられている当の本人の星の顔は真っ赤になっていた。 「あ、あの……えっ、と」 耳まで赤く染めながら、もごもごと口を動かす星は可愛いけれど。何が起きているのか、まだしっかり判断がつかない状態の星はオロオロするばかりで。 「……まぁ、その辺はお互いよく話し合って。俺はユキもせいも大事だから、二人に幸せになってほしいと思ってる。兄としても、友達としてもね」 星が好きだと言っていた王子様の微笑みを降臨させた光は、最後に嘘偽りのない言葉を星に投げ掛けた。そして、小さな頭がコクリと揺れる。 「……ありがとう、兄ちゃん」 か細く聴こえた星の声、光にまで届いているのか分からないが、最小限にして最大限の感謝なんだろうと思った。 「さてと、リビングでこんなことして何やってんだって感じだねぇ……それより、いつまで俺の前でイチャついてるつもりなの?」 わざと派手に両手を叩き、室内の空気感を変えた光は、これまたわざとらしく溜め息を吐いて腕を組む。 「あ、そうだ。俺に見せびらかすんだったら、もっと可愛くユキちゃんに甘えてみて?せい、ユキちゃんの前に跪いて、上目遣いで見上げてあげたらユキちゃんとっても喜ぶよ?」 怪しく上がる光の口角は、ニヤニヤと擬声語を奏で始めるかのように笑い、言葉の意味を理解できない星は助けを求めるように上目遣いで俺を見る。 「いや、え……ん?」 「光、星を虐めるな。俺たちにお前の趣味を押し付けるんじゃねぇーっての……っつーか、お前もお前でそんな顔して見つめてくんじゃねぇーよ」 光の教えに従わなくとも、コイツはこのままで充分すぎるほどに可愛らしい。というか、跪いていないだけで、やってることは光の教えとそう大差ないような気がして苦笑いが漏れた。 これじゃ、俺と星が光のオモチャだ。 光は肉体的な服従ではなく、精神的な服従心を言葉巧みに操ってゆくのが好きな人間。光の本性を星に隠さなくてもよくなった今、光は星を使って俺の反応を窺いながら遊んでいるに違いない。 最初は俺が星をオモチャだと思っていたはずなのに、この数日で俺はすっかり星に溺れてしまった。 「恥ずか、しい」 光の言葉に耐えきれない星は小さな声で呟いたまま、俺に抱きついて離れようとしない。そんな小さな呟きも、今の光にとってはいい餌でしかなくて。 「せーい、恥ずかしいことも共有して、恋人同士になっていくものなんだから。こんなことで恥ずかしがってたら、せいはユキちゃんとあーんなコトやこーんなコトが、いつまで経ってもできないままになっちゃうのに」 ……あぁ、この悪魔は頭に角が生えてやがる。 賭けに勝ったのは俺のはず、しかし光に遊ばれてばかりの俺は釈然としないから。 「んな顔してると喰っちまうぞ、バカ」 そう星の耳元で囁いた俺はこのとき初めて、星に腹をポカポカと殴られた。

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