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第104話
「青月くん、顔真っ赤だけど大丈夫?」
前の席の西野君に話し掛けられて、オレはビックリして我に返っていく。辺りを見渡せばここは教室で、今は休み時間だけれども。
「熱でもあるんじゃないかな……保健室、行って来た方が良いと思うよ。先生には僕から伝えておくからさ、あんまり無理しないでね?」
「あ、えっと……行ってきます」
オレの顔を覗き込むようにして、心配そうに見つめてくる西野君の気遣いを素直に受け取ることにしたオレは、ゆっくりと椅子から立ち上がる。あと10分ほどで五限目が始まってしまうけれど、とりあえずオレは火照った顔をどうにかしたくて。
半ば逃げるようにして教室を出たオレは、ぼんやりと廊下を歩いていく。入学してまだそう月日が流れているわけじゃないこともあり、オレはうろ覚え状態で保健室を目指した。
確か、オリエンテーリングで保健室は一階の南側にあると言われていた気がするから。まだイマイチ把握できていない学校の中、昼休みで混雑している廊下を潜り抜け階段を下りて。
オレがやっと一階の踊り場まで辿り着くと、そこに知っている顔をみつけた……けれど、声を掛ける勇気が一瞬にして消え失せたオレは少しだけ足を止めた。
この学校内で知っている顔、それはクラスが違えど毎日オレを迎えに来る弘樹。ただ、そんな弘樹の周りには数人の女の子たちが弘樹を囲うように集まり、代わる代わる弘樹に話し掛けていて。
入学早々、女の子たちから興味を持たれているらしい弘樹は、困ったように笑いながら女の子たちと話していた。
弘樹がモテるのは良いことだと思うし、今の弘樹の状況をとやかく言うつもりもない。ただ、オレは面倒なことになりたくないと思い、弘樹に見つからないようにそっと横を通り過ぎようとしたんだけれど。
「……あ、セイっ!!」
……まずい、そしてヤバい。
オレは、あっさり弘樹に見つかってしまった。弘樹が大きな声で呼びかけたせいで、周りの女の子たちからは怪訝そうな声がボソボソと聴こえてくる。
こうなるのが嫌だから、オレは見つからないように気を遣ったのに。弘樹に悪気があるわけじゃないんだろうけれど、不愉快そうな女の子たちから視線を浴びせられるオレの身にもなってほしい。
オレは弘樹みたいに、知らない人とでも仲良く話したりできない。頑張ろうと努力はしてみるものの、緊張してしまって結局上手く話せないんだ。
オレが人見知りなことを弘樹はよく知ってるくせに、そんなオレの気持ちはお構いなしに、弘樹は周りの女の子たちにひと言断りをいれるとオレの方へと向かってくる。
心の内で何度も来なくていいと呪文を唱えてみたけれど、弘樹の足は止まるどころかその距離は縮まっていくばかりで。もう逃げられないと諦めるしかないオレは、小さな溜め息を吐いて踊り場の隅で壁に凭れかかるように精一杯身を隠した。
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