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第105話

「セイ、なんでこんなとこにいんの?」 それはこっちが聞きたいことだけれど、当然と言えば当然な弘樹からの問いにオレは渋々答えていく。 「顔が赤いから熱でもあるんじゃないかって、西野君が心配して保健室に行った方がいいよって言ってくれたから……だから、オレは保健室に行く途中なの」 体調が悪いわけじゃないことは、分かってる。 でも、白石さんのことを考えていたから熱っぽく見えただけだって。本当のことを弘樹に説明できるはずもなく、オレは西野君との会話だけを弘樹に話したけれど。 「んー、確かに少し赤いかも……っと、ちょっとごめんな」 オレの顔を覗き込んできたかと思えば、そのすぐあとにオレの額に触れてきた弘樹は、自分の額の熱と比べ始めてしまう。幼なじみだから、小さいころはたまにこういうやり取りをしたこともあったけれど。高校生になったっていうのに、恥を知らない弘樹にオレは文句すら言えなかった。 周りからの視線が痛く感じるし、弘樹を囲っていた女の子たちの話し声が遠くの方から聴こえてくるのが分かる。だから今は熱のことなんかどうでもよくて、オレはとりあえずこの場から離れたくて仕方なくて。 オレの額にある弘樹の手を無言で振り払い、オレは大袈裟に息を吐いた。 「もしかしたら熱上がるかもしれないから、俺がこのまま保健室連れてってやるよ」 本当に体調が悪かったなら、ありがたく感じる言葉なのかもしれない。でも、今のオレにはただの迷惑でしかない弘樹の申し出にオレは首を横に振る。 「あと少しで授業始まるし、保健室くらい一人で行けるから大丈夫。心配してくれてありがとう。でも、弘樹は自分のクラスに戻った方がいいと思う」 「俺のクラス、今日の午後は担当の先生が出張でいないから自習なんだよ。だから、俺は授業出なくても何とかなるからさ」 余計なお世話だと、遠回しに伝えたはずのオレの意見は弘樹にスルーされたみたいで。弘樹はニィと笑ってオレの手を勝手に取ると、ズンズンと保健室の方へと向かっていく。 「ちょっと、あの……弘樹っ」 声を掛けても返事はなく、弘樹に手を掴まれて引っ張られていくオレを周りの生徒は不思議そうに眺めてきた。 目立つことは極力避けて通りたいのに、基本的に決めたらすぐの性格の弘樹にオレは振り回されている。 「……ん、着いた」 弘樹に誘導されなくても、保健室はオレが思っていた場所に存在していて。弘樹の行動にただただ呆れてしまうオレは、感謝を述べる気が起こらない。 「シーツレーシマース……って、あれ。セイ、誰もいないみたい」 「生徒も、先生も?」 勢い良く扉を開け、元気良く保健室に入室した弘樹は、どう考えてもこの部屋に用はない人間だと思う。でも、オレも特に体調不良なわけじゃないからその点は弘樹と変わりないのかもしれなくて。 不幸中の幸いというのか、仮病っぽい状態のオレの体温を確認する先生は不在で。少しだけ安心したオレは、弘樹のあとを追って保健室の中に入ると体温計を探し始めたんだ。

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