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第108話
「あのときだろ。コレ、つけられたの」
その言葉とほぼ同時に、オレの首筋に弘樹の手が触れる。
「……ッ」
突然のことで抵抗もできず、弘樹の話に反論もできないオレは身を縮めるのがやっとだった。
「大分薄くなってきたけど、あの店員となんでそんなコトしてんだよ?」
「弘樹には、関係ないことでしょ……オレがどこで何してようと、弘樹にどうこう言われる筋合いはないじゃん」
オレは弘樹から視線を逸らし、何処かで聞いたことのあるセリフをそのまま弘樹にぶつけていた。けれど、弘樹に引き下がる気はないようで。
「……んじゃ、質問の仕方変える」
そう、ひと言。
呟いた弘樹の手は首筋から顎へと移動し、オレは強制的に弘樹と視線を交えた。
そして。
「俺は、ずっと昔から男としてセイが好き……なぁ、好きな相手が他のヤツにキスマ付けられてても、それでもセイは関係ねぇって言えんの?」
白石さんがつけていった、たった一つの小さな赤い痕。オレの身体に残るその印は、オレと弘樹の仲を狂わせていく。
「……弘樹は、友達だよ。男として好きって、言ってる意味が分かんないんだけど」
オレが白石さんに惹かれているみたいに、弘樹はオレのことが好きって話だとしたら。なんとなく意味は分かってきたけれど、そんなの有り得ないと思う気持ちの方が強くて。オレは真っ直ぐに、弘樹を見ることができなくなってしまう。
「もちろん、友達だよ。今までも、これからも。でも、それだけじゃないんだ。色々悩んだけど、セイには俺の気持ちだけ伝えとく。返事は、まだいらないから」
男の白石さんと男のオレが、イチャついているように見えたって……それが気持ち悪かったとか、友達としてヤバいと思うとか。そんな話の上をいく弘樹の告白に、オレは何も理解できていないまま頷いてしまったんだ。
「それよりさ、ショップの兄さんのこと教えて。どんなことが起こって、セイがあの人と一緒にいたのか知りたい」
「だから、弘樹には関係ないって何度言ったら……えっ、ちょ、何やってんのっ!?」
オレの顎を支えていた弘樹の手がふわりと肩へ移り、そのまま体重を掛けられたオレはベッドに押し倒されていた。
弘樹は、冗談でこんなことをするタイプじゃない。でも、オレは冗談だって思いたい。授業をそっちのけで友達から押さえ付けられているこの状況は、冗談でも笑えないのに。
思った以上に力の強い弘樹は、オレがベッドの上でもがいてもビクともしない。同い年で、お互い物心が着いたころから一緒に遊んでいた友達なのに。
「セイが話してくれないなら、このまま色々しようかと思ってる。今、誰もいないし……俺たちもう高校生だし、それなりに男だしさ。話してくれるなら何もしないけど、セイはどうする?」
どうするも、なにも。
親友の弘樹に押し倒される前、オレは兄ちゃんにも似たようなことをされているから。
「話すっ、ちゃんと話すから……お願いだからこんなことしないで、弘樹。あのショップの店員さんは、オレの兄ちゃんの友達だったの」
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