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第109話

オレが暴れても、力では弘樹に勝てない。 白石さんのときも、兄ちゃんのときも、そして弘樹も。ジタバタと暴れるだけじゃオレは解放されるどころか余計に押さえ付けられることを少なからず学んでいる。 男としては実に情けないことだけれど、弘樹に対して恐怖感を抱くよりはずっといいと判断したオレは、弘樹に白石さんのことを説明した。 「……いや、は?」 すると、弘樹はポカーンとすっとぼけた顔をして、腕の力を抜いていく。その隙にオレは起き上がって弘樹から距離をおくため、ベッドではなく椅子に座った。 「あの人は白石さんって言って、オレの兄ちゃんの友達だよ。兄ちゃんの高校からの同級生で、通ってる大学も一緒なんだって」 オレは、ウソはついていないんだ。 白石さんがどんな人かと聞かれたら、きっと真っ当な答えはオレが言った内容だと思う。白石さんは兄ちゃんの友達、それだけでも充分な情報なのに、弘樹は頭を抱えていた。 「……世間って、狭いのな。何、その偶然。てか、セイの兄ちゃんとあの兄さんが友達とかヤバいだろ?イケメンはイケメンを喚ぶのか?神様はホントに残酷なことしかしねぇや」 確かに、弘樹の言う通りかもしれない。 白石さんと出逢ってから次々に色々なことがあり過ぎて、オレは白石さんと兄ちゃんが友達ってことをかなり早足で受け入れるしかなかったけれど。 弘樹のように他者から伝えられていたなら、オレも弘樹と同じようなことを感じると思う。王子様な兄ちゃんと、モデルみたいな白石さん……容姿の良さで交友関係が決まるとは思いたくないし、弘樹だってバカなだけで顔はそこまで悪くないはずなんだ。 「ショップの兄さんが王子と友達だってことは分かったけどさ、なんでそこにセイが関わってるわけ?」 「それはっ、それは……」 ……どうしよう、言えない。 白石さんにキスされて、脅されて。 弘樹とショップに行ったときには、すでに白石さんのことをオレは知っていて。しかもその日に強制的に泊まることになって、オレもよく分からないまま白石さんの魅力に惹かれ、最終的にはオレから帰らなくていいと甘えて。弘樹の家に泊まると親にウソまでつき、本当は白石さんのお家に2日間も泊まってました。 なんて。 オレは正直に全てを話すことはできないし、どう説明すればいいのか分からない。 「あっ、あの日は……たまたま、その、色々あって。だから、白石さんに家の近くまで送ってもらったの」 「あのさぁ、セイ。その、たまたま、色々、って部分がすげぇ気になるんだけど」 せっかく誤魔化したオレの努力も虚しく、弘樹はオレに圧をかけるみたいに話してくるから。 「えーっと、オレが料理が好きって話をしたら、白石さんがお勧めのカフェに連れてってくれたんだ。それで、コンビニまで送ってもらった」 「お勧めのカフェ紹介してもらってキスマ付けられんのか、おかしくね?」 ……そんなの、オレも良くわかんないよ。

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