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第119話
「遅くても19時半にはこちらの勤務、終了致しますので。一度ご帰宅して、私服に着替えて来ていただけますか。一応、親御さんには帰りが遅くなる旨をお伝え下さい。話が長くなってしまう可能性がございますので……それでもよろしければ、お答えいたします。19時半に、こちらのショップの前でお待ちしております」
俺とは違って自由度が低い高校生の立場を考慮し、俺がそう伝えると。
「わかった、19時半に必ず来るから待っとけよッ!」
弘樹は俺に言い放ち、一目散でショップを後にした。そんな弘樹の背中を眺め、俺が息を吐くと堪えていた笑いが一気に溢れて止まらなくなる。
笑っている場合ではないのだが、何故だか他人事のように思ってしまうのは、年長者としての余裕からなのか、それとも別の理由があるのかは定かじゃないけれど。
……星って、男にモテんだな。
そんなことを考えつつ、俺は19時までのバイトの時間を通常通り終えた。その後、ロッカールームで私服に着替え、飲みに行こうと誘ってくる康介に蹴りを一発お見舞いしてやって。
俺が外に出ていくと、ショップの前で私服姿の弘樹が腕を組んで待っていた。
俺の言いつけを守ったらしい弘樹は、昼間の制服姿とは違い、ベージュのパンツに白シャツ、ネイビーのカーディガンを羽織っている。
この服装なら、多少話が長くなろうが、口論になろうが、補導される可能性は低くなるだろう。何時になるか分からない帰り時間の心配までしてやる俺は、我ながら相当優しい人間だと思った。
「先程、お声をかけて頂いた白石と申します。お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。とりあえず、ゆっくり話せる場所に移動しましょう。ついて来ていただけますか?」
俺は弘樹に近寄りそう言うと、駅地下にあるファミレスを目指し足を進めていく。
移動中、弘樹は苛立ちを全面に出していたものの、それでも無言のまま俺の後を大人しく追ってきて。そんな弘樹の様子から見て取れる緊張感を快くスルーし、俺は目的地まで弘樹を誘導していった。
そうして辿り着いたファミレスに足を踏み入れ、最初に確認すべきことを俺は弘樹に尋ねていく。
「僕、煙草吸うんだけど喫煙席でも大丈夫ですか?」
「別に、何処でも」
星は最初から、俺の煙草の匂いを良い匂いだと言っていたから、今では何も聞かずに隣で吸っているけれど。弘樹には一応、聞いておく必要がある。
そう思い尋ねたが、弘樹は極力無駄な会話を避けたいのか、そっぽを向きながら適当に返事をしただけだったので、俺は迷わず喫煙席を選択した。
喫煙席で二人がけのテーブルに通され、お互いドリンクバーのみ注文し、また無言のまま飲み物だけを取りに行った俺と弘樹だったが。
アイスコーヒーを持ち俺がテーブルまで戻ると、弘樹は何故か上座に居座り、グラスにはコーヒーと同系色のコーラが注がれていて。
精一杯の背伸びをして俺に会いに来た覚悟だけは認めてやろう、と。心の中で苦笑いを漏らした俺は、話し出すタイミングを伺っていた。
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