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第128話
【星side】
「あの、あ……お邪魔、します」
「邪魔だと思ってねぇーから、とりあえず入れ」
オレは今、白石さんの家にいます。
二度目の訪問は、午後ではなく午前中からとなりました。今日は土曜日、白石さんにナポリタンを作ってもらう約束の日。
でも、オレは何処か上の空で。
昨日の保健室での出来事や、オレがLINEをした弘樹のこと……結局、あのあとの弘樹がどんな行動を取ったのか、オレは何も知らないまま今日になってしまったから。
白石さんに色々と訊きたい気持ちはあるけれど、そのタイミングが掴めないまま白石さんのお家まで辿り着いてしまったオレは、とりあえず玄関で靴を脱ぐ。
昨日の夜、今日の予定を連絡してくれた白石さんは、その予定通りにオレを自宅まで迎えに来てくれた。自宅といっても、正確には家の裏の公園に車を駐めていたんだけれど。
変に白石さんのことを意識してしまうオレは、迎えに来てもらったときから今の今まで……そして、現在進行形で緊張しっぱなしなのに。
「星、こいよ」
オレより先に靴を脱いでしまった白石さんに手を引かれ、オレは玄関から一歩先へと足を進めることになる……と、思ったのはオレだけだったらしく。
「……うわっ」
キュッと強く手首を掴まれた瞬間、オレの体は白石さんの胸に飛ぶ込むようにして倒れていった。その拍子に、白石さんに抱き留められたオレは耳まで赤くしてしまう。
すっごく恥ずかしいのに、とっても安心する白石さんの腕の中。やっぱり、オレは白石さんのことが好きなのかもしれない。オレが自分で思っている以上に、オレの心は白石さんに抱きしめられて喜んでいるみたいだ。
「相当緊張してんね、星くん」
オレの耳元でそう言って、クスっと笑う白石さんの吐息がくすぐったい。
「……っ、だって」
こんな状況で、ドキドキしない人のほうがおかしいんだ。ずっとこうしていたいような、でも離してもらいたいような、なんとも言えない気持ちを抱えるオレは、白石さんの腰に腕を回すのを躊躇ってしまう。
でも、少しだけ遠慮がちに白石さんの服の裾を握ったオレを見て、白石さんはオレの頭をくしゃりと撫でると優しく微笑んでオレから距離をおく。
「そりゃ緊張するよな、色々と」
「うん」
白石さんの言葉に、オレは頬を染めながらも素直に頷いた。オレは確かに、緊張してるしドキドキしてる……でも、白石さんが微笑んでくれると、すごく安心するから。
オレは服の裾を握ったまま、部屋の中に入っていく白石さんのあとを追った。
リビングと寝室とキッチンが一つになったようなワンルーム、一度訪れたことのある部屋の中は相変わらず整理整頓されていて、とても綺麗だけど。
「……白石さん、ネコっ、黒猫さんがいます!」
この間泊まりに来たときにはいなかったはずのぬいぐるみを早くも発見したオレは、白石さんの服から手を離すと一目散にぬいぐるみの元へ駆け寄った。
ベッドにちょこんと行儀良く座っている黒猫のぬいぐるみは、遠くから見ても存在感があった。けれど、近くで見るとやっぱり結構な大きさがあって。
「触っても、大丈夫ですか?」
眺めているだけでは勿体ないような気がしたオレは、白石さんにそう尋ねていた。
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