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第129話

「もちろん、大丈夫だ。俺今からコーヒー淹れるからさ、お前の好きなように遊んでやって」 白石さんから快い了承を得たオレは、真っ黒な猫のぬいぐるみに手を伸ばす。見るからにふわふわな感じがするけれど、実際に触れたら思っていた以上に触り心地が良かった。 薄いピンク色の耳と小さな鼻、同じの色の肉球がとっても可愛らしい。オレを見つめてくれる瞳も、曇りのないくりくりした黒目で思わず抱きしめたくなってしまって。 自分の衝動に忠実に従ったオレは、ぬいぐるみをぎゅっと抱えてソファーに移動した。 「……可愛いっ!」 ソファーに腰掛け、黒猫のぬいぐるみをまじまじと見つめる。つい洩れてしまった言葉が想定していたよりも大きな声で出てきてしまい、オレは咄嗟に口元を隠したけれど。 「可愛いだろ、ソレ。この間、光の誕プレ買いに行ったときたまたま見つけてな。お前にそっくりだったから、衝動買いした」 どうやら、オレの声は白石さんに届いていたらしい。でも、そんなことよりも。この黒猫のぬいぐるみを白石さんが買ったって事実に、オレはびっくりしてしまって。 「オレ、この子みたいに可愛くはないですよ。というか、白石さんってぬいぐるみとか買うんですね……しかも、こんなに大きい子」 キッチンに立っている白石さんに向かい、オレは素直な感想を述べた。 なんというか、オレの中での白石さんはスタイリッシュなイメージがあるんだ。服装は何を着てもかっこいいし、家具だってモノトーンで統一されているから、白石さんの身の回りは常に、洗練されている感じなんだけれど。 そんなイメージの白石さんが、こんなに愛らしいぬいぐるみを自ら購入するなんて……意外というか、違和感があるというか。 でも、決して不釣り合いなわけじゃないぬいぐるみを抱えながら、オレはこのなんとも言えない感覚に合う言葉を探していく。 「普段は絶対買ったりしねぇーんだけど、ソイツは特別だったから……ん、コレお前のココア」 「あ、ありがとうございます」 そんなとき、だった。 両手にマグカップを持ち、オレの隣に腰掛けた白石さんはオレの分のマグをテーブルに置く。そして、オレと目を合わせることなく、白石さんは自分のマグに口付けた。 ……なるほどって、思った。 こういう感覚をきっと、ギャップがあるって言うんだなって。白石さんの表情を見つめ、スッと腑に落ちたオレは頬を緩めてしまう。 マグカップでちゃんとは見えないけれど、少しだけ照れ臭そうにしている白石さんがとても可愛く思えたんだ。 たぶん、白石さんは自分でもぬいぐるみが似合わないと思っているに違いないと思う。そうじゃなかったら、オレの前でこんな表情はしないはずだから。 オレより大人で、頼りに出来て、余裕があると思っていた白石さんだったけれど。どうやら、意外な一面も持ち合わせているようで。 オレはちょっぴり優越感に浸りながら、新たに知ることのできた白石さんの幼い部分を感じ、ゆっくりと緊張感を手放していった。

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