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第130話
美味しいココアを飲みつつも、オレはぬいぐるみを抱いたままソファーでまったりとしている。それもこれも、甘くて穏やかな雰囲気を醸し出している白石さんのおかげで。
「白石さん、この子に名前付けてあげました?」
特別なぬいぐるみなら、きっと名前を付けてあげているんだろうって。何の躊躇もなくそう尋ねたオレを見て、隣にいる白石さんが不思議そうな顔をした。
「……お前、ぬいぐるみに名前付けんのか?」
「え、付けないんですか?」
なんとなく、オレは愛着が湧いた物には名付けてしまうことが多いんだけれど。白石さんはどうやらそうではないらしく、オレが質問を質問で返すと白石さんは困ったように笑った。
「まぁ、お前が言うなら付けてやってもいいけどな。そうだなぁ、名前か……」
コーヒーが入っているマグをテーブルに置き、そう言った白石さんは煙草の箱を手に取って。その中から一本だけを引き抜いたあと、とても自然に火を点けていく。
その姿があまりにも様になっているから、オレはドキドキして染まる頬をぬいぐるみで隠していくんだ。でも結局、見蕩れてしまうから視線を逸らすことはできなくて。白石さんの指先や口元を、オレがボッーと眺めていると。
「……ステラは?」
呟くようにボソリと声を出した白石さんが、オレの腕の中にいるぬいぐるみの頭を撫でたから。この子の名前が決まったんだって、オレは直感的に思ったけれど。
「ステラって、クッキーですか?」
名付けられた意味を知りたくてオレがそう訊くと白石さんは苦笑いして首を振った。
「ちげぇーよ、ソイツは星によく似てるから。スターだとなんか変だし、ステラならおかしくねぇーだろ。イタリア語で星って意味だけど、お前は納得できない感じか?」
「ううん、とっても素敵な名前だと思います。本来の意味を知らずに、オレが勝手にクッキーを連想しただけなので気にしないでください」
食べちゃいたいくらいに可愛いから、だからステラなのかなって個人的に思ってしまったけれど。白石さんはオレのように安易な考えではなく、もっとしっかりとした意味でぬいぐるみに素敵な名を付けたんだ。
「素敵な名前を付けてもらえて良かったね、ステラ」
オレはたった今、白石さんに名付けてもらったばかりのステラの頭をよしよしと撫でていく。名前の由来にオレが関係しているのは、ちょっぴり気恥ずしいけれど。
「白石さん、ステラも嬉しいって言ってます」
ふわふわのステラを抱いているオレは、ステラの瞳を覗き込むと白石さんにステラの気持ちを伝えてあげた。本当に、ステラが嬉しいと思っているのかは分からない。でも、オレはなぜだかそんな気がしたのに。
「……お前、ぬいぐるみと会話できんだな」
白石さんはステラと話すオレを見て、お腹を抱えてクスクス笑い始めてしまったんだ。あどけない顔をして笑う白石さんは、オレの知らない表情をしているけれど。
ちょっとだけバカにされてる気がしたオレは、ステラの両手を持って。ニャーと声を出しながら、白石さんのことをステラごと襲ってあげた。
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