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第134話

お洒落な白石さんに連れられやってきた場所は、ショッピングモールだった。 車で移動中、オレは自分の服装のことを気にしていたけれど。白石さんが大丈夫だって言ってくれたから、オレはとりあえずその言葉を信じることにして。 キッチン用品が並んでいるコーナーで、オレは白石さんの後ろをちょこちょこと歩いていく。 「ステーキ皿みたいな鉄板が家にねぇーから、スキレット買おうと思ってんだけど……それで夕飯のナポリタン作ってもいいか?」 「白石さんが作ってくれるなら、何でもいいです。けど、あの、スキレットって何ですか?」 ふわふわと揺れる白石さんの髪を見つめ、後ろ姿もかっこいいなって思っていたオレは、白石さんからの問いに深く考えず答えた。でも、聞きなれない単語に疑問を感じたオレが白石さんに尋ねると、白石さんは下の方の棚にある小さなフライパンを手に取った。 「コレ、丸くて小さい厚手の鉄製フライパン。保温性が高くて、色んな料理に使えんの。カフェとかでこのまま出てくる店もあるらしいからな、結構欲しかったやつなんだよ」 小さくて可愛いのに、鉄製な感じが丸出しのフライパン。オレはこのフライパンで、熱々卵とナポリタンが盛られているのを想像して興奮する。 「これに卵引いてあるナポリタンなんて、絶対美味しいですよ。白石さんって物知りですよね、オレも色々勉強しなくちゃいけないことがいっぱいあるんだなって気付かされるというか」 「どうせ作るなら、見た目も味もそれなりにこだわりてぇーだろ。食材もそうだし、器もそう……まぁ、それも自己満足で終わるけどな」 スキレットを二つ手に持ち、そう言った白石さん。こだわることは悪いことじゃないのに、白石さんの呟きはなんだか寂しそうに聞こえたから。 「……二人で食べるから、満足するのは白石さんとオレのはずです。自己満足でいいじゃないですか、オレも美味しいご飯が食べたいですもん」 「まぁ、そうだけど」 「オレと白石さんが満足なら、それだけで充分価値があると思います。それに、オレは料理してるときの白石さん好きですよ?」 「星……」 素直に気持ちを伝えたオレは、伝えたあとで気が付いた。どうやらオレは、気持ちを表に出しすぎたらしい。簡単に好きだと言ってしまった自分が恥ずかしくて、オレの顔は見る見るうちに赤くなる。 焦るオレを見る白石さんの口角が上がり、細められた瞳は綺麗な弧を描いて。 「サンキュー、嬉しいこと言ってくれんじゃねぇーか。お前は、料理してるときの俺が、好きってことだな」 「いや、その……」 意地悪に笑ってオレの頭を撫でていく白石さんの言動に、オレは反論することができずに服の裾をキュッと握り締める。 「可愛いヤツ」 キッチン用品に囲まれ、独りで顔を染めるオレと、ご機嫌そうな表情の白石さん。スキレットの購入で、夕飯は楽しみになったけれど……気分転換で家から出てきたにも関わらず、オレが白石さんにドキドキしてしまうのは家でも外でも変わることがなかったんだ。

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