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第135話
お目当ての商品を購入した白石さんは、特に目的もなくショッピングモールの中をフラフラと歩いていく。これぞ正に、ウィンドウショッピング……なんて、白石さんの後ろ姿を見てオレがそんなどうでもいいことを考えていたときだった。
オレの目に止まったのは、小洒落た雑貨屋さんの特設コーナーで。興味を唆られる品が沢山並んでいる前で足を止めたオレは、前を歩いていた白石さんに声をかけていく。
「……白石さん、ここのお店ちょっと見ていいですか?」
「あぁ、いいけど。星くん、なんか欲しいもんでも見つけたか?」
思いの外、あっさり立ち止まってくれた白石さんはオレの隣でそう問い掛けてくれた。
「えっと、ここのバブルバスのコーナーが気になって。オレ、まだ人生で一度もちゃんとした泡風呂体験をしたことがないんです」
カラフルな色のパッケージは可愛らしくて、色んな種類の商品が並んでいる。その中でも、オレは最初に心を惹かれた品に手を伸ばした。
「オレね、すごく小さいころにバブルバスに入ってみたくて……母さんに内緒で兄ちゃんと一緒に、ボディーソープをお風呂の中で必死に泡立てたんですけど、全然ダメで。ボディーソープ使いすぎて、母さんに怒られたんです。それからうちでは、バブルバスもその真似事も禁止になっちゃって」
まだ小さかったオレと兄ちゃんは、ボディーソープじゃ泡立たないことを知らずに、お風呂の中でドロドロになっていくボディーソープを必死で混ぜていたんだ。
それからうちでは、バブルバスが禁止になってしまって……オレは結局、今まで一度もバブルバスの体験ができないままこの歳になってしまった。
家ではできない体験を、白石さんのお家なら味わうことができるかもって。ちょっぴり期待しつつ、オレが過去の恥ずかしい話を白石さんに披露したところ。
「お前ら兄弟、可愛いことしてたんだな。入ってみたいなら、今日風呂んときに試してみるか?」
……さすが、白石さんだ。
なんでも願いを叶えてくれる、なんて。
そこまでの無理難題を、押し付けるつもりはないけれど。白石さんならきっと、オレのこの淡い期待を裏切ることはしないんじゃないかって思ったオレの予想は見事に的中した。
「嬉しいですっ、ありがとうございます!」
「俺はなんでもいいから、好きなの選べ。今持ってるやつでいいなら、それ買ってやるけど」
オレの手にあるのは、ワインボトルの容器に入っているイチゴの香りのバブルバス。真っ赤な液体が入っているソレを指差し、白石さんは確認するようにオレに尋ねてくれる。
「んー、兄ちゃんがイチゴ好きだからコレかなって最初は思ったんですけど……季節的に、こっちのピンクも良さそうですよね」
「桜のシーズンだしな。バスソルトとかも、ただの入浴剤もほぼピンクだ」
「だから特設コーナーになってるのかも。えーっと、うーん……決めた、やっぱりこっちのピンクにします」
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