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第144話
……あー、そういえば。
後から俺が一緒に風呂に入るって、星になんも言ってねぇーわ。鼻歌まじりでルンルン気分の今の星なら、どさくさ紛れに一緒に入っても大丈夫だろうけど。
そんなことを思いつつ、俺は夕飯の片付けを手早く済ませると着ている服を脱ぎ捨てる。続いて、ピンク色の液体が入ったボトルを手に持ち星が入っている風呂場の扉をガラリと開けていく。
すると、裸の星が目を閉じて頭からシャワーを浴びていた。
白い肌にいくつもの水滴が流れ落ちていき、真っ黒な髪はいつにも増して艶めきを放っていて。
なんともエロい眺めだ、と。
心の中でそう言った俺の存在に気付いた星は、ギョッとした顔をしていた。
「えっ、白石さんっ?!ちょ、なんで勝手に入ってきてるんですかっ!!」
そう言いながら、両手で色んな部分を必死で隠そうとアタフタしている星はとても可愛いけれど。
「……勝手にって、ここ俺ん家だし。お前さ、バブルバスやんだろ?」
俺はそう言って、手に持っていたバブルバスのボトルを星に見せつける。
「そう、なんですけどっ!!白石さん、なんで裸なんですかっ!あぁ、もう……恥ずかしいっ」
どんどん真っ赤になっていく星は一人で忙しそうにしているが、星へ模範解答してやるとするならば……なんでって、そりゃ一緒に入るためだろう。
「お前、最初に会った時に俺の裸みてんだろーが、今更ナニを恥ずかしがってんだよ。ほら、バブルバスやってやるからよく見とけよ?」
目のやり場に困っている星の意識を、初体験らしいバブルバスに集中させてやる。バスタブにピンク色の液体を入れて、シャワーを勢いよく当てると、簡単にモコモコと泡が作りだされていった。
「うわぁー、あわあわっ!! 」
俺の読み通り、隣ではしゃぐ星に恥じらいの色は消え、浴槽にはふわふわな泡風呂が出来上がった。バブルバスの桃の香りが、風呂場の中に充満していく。
「こんなもんでいいだろ、もう入っていいぜ」
泡が浴槽で育つ間、ジーッとその様子を見つめていた星は、俺の言葉を合図に泡の中へと白い身体を沈めていった。
「ふわふわぁー、気持ちいいです」
淡いピンク色の泡を両手ですくい上げ、ソレに息を吹いて遊んでみたり、肌にまとわりつく泡の感覚を楽しんだり……ご満悦な仔猫さんは、言わずもがな可愛いから。
俺はさっさと全身を洗い終えると、泡風呂で遊ぶ星を包み込むように、俺も狭いバスタブへと身を沈めた。けれど、バスタブの中の泡は俺が入った分だけ外へと溢れてしまったのだ。
「ちょ、泡がもったいないっ!!何してくれてるんですかっ!!」
「何って、一緒に入りたいなぁと思って」
俺の裸体に恥を感じていたことをすっかり忘れてバスタイムを楽しんでいた星だったが、排水口へと流れていく泡を目で追いかけて……そして、俺はその目でギロりと睨まれた。
「……窮屈ですぅー」
唇を尖らせ、膝を抱えてそんなことを言われても。腹を空かせた狼の前では、この状況を本気で嫌わない限り逃げ場はない。
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