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第1話
ジメジメした梅雨は嫌いだ。外に出るのが億劫になる。でも、梅雨明けすれば夏本番になって大好きな祭がやってくる。
博多祇園山笠。
流星(りゅうせい)は山笠が好きだ。それは祖父の弟の修の影響。
修は山のぼせと言われる山笠好き。修に連れられ流星は幼い頃から山笠に参加しており、子供山笠というのも行われているのでそれに毎年参加していた。
「早う晴れんかなあ」
流星は雨の校庭を見ながら呟く。
「流ちゃん、今日うち来ん?」
同じクラスの葉月が声をかけてきた。
「なんだ、葉月か……だめ、今日は修ちゃんと約束しとるけん」
「じゃあ、僕もいく!」
「別に良かけど、お前、俺とばっかおらんでも他のクラスの子と遊べばよかやん?」
「いや!だって流ちゃんだけやもん、僕をちゃんと葉月って呼ぶの」
「えっ?ハリーって呼ばれると好かんと?」
葉月は父親がアメリカ人のハーフで丸メガネの男の子。名前は葉月だけど、映画のハリーポッターの俳優に似ているというので女子が呼び出してそれ以来ハリーと呼ばれていた。
「好きくない……僕、葉月やもん」
葉月はプクッと頬を膨らませて拗ねる。
「俺は羨ましいって思うけどなあ、だってハリーポッターってかっこよかやん!」
流星は葉月の頭をポンと撫でた。
◆◆◆
「修ちゃーーーん!あーそーぼ!!」
流星は修の家の玄関で叫ぶ。
しばらくして足音が聞こえて頭をボリボリかきながら修が現れた。
「また、おっちゃん達と飲んどったと?」
流星はランドセルを玄関に置く。
「おう!飲むのも仕事やけんな!流星も大人になったら大人の男の付き合いが分かるようになるばい」
「俺、まだ小学生やけんわからん」
「来年は中学生やろうもん?」
「ばってん子供ぞ?」
「俺が子供ん時は中学生から飲んどった!」
「そげん、昭和の話……」
そんな会話をしている中、葉月がおずおずと修に挨拶をする。
「おう、葉月も来とったとか?」
修は葉月の頭をわしゃわしゃ撫でる。
「宿題はでとるとか?」
「でとらん」
流星は即答するが「葉月に聞きよる」と修は葉月を見る。
「算数がある」
「ば!葉月!」
流星は葉月の口を塞ごうとするが「よし、じゃあ、勉強みちゃるけんこい!」と首根っこを掴まれる。
「葉月もこい」
「うん」
葉月は嬉しそうに靴を脱ぐと家に上がった。
◆◆◆
修は1人暮らしだ。
修と流星の関係は流星の祖父の弟。つまりは大叔父。
今年70になるのだが若く見えるし、話も上手いので若い知り合いもたくさんいる。それに修は学校の先生もやっていたので勉強を教えるのはとても上手い。
「今日泊まってってよか?」
流星は算数の宿題を前に唸りながら修に聞く。
「なん?もしかしてなにかやらかしたか?」
修はニヤニヤしながら聞く。
「じいちゃんの植木ば壊した……」
「あー、そりゃカミナリ落ちるねえ」
「そいけん泊めて」
「よかばってん、ちゃんと後で謝れよ?葉月はどげんする?」
修は真剣に宿題をしている葉月に聞く。
「と、泊まってよかと?」
葉月はおそるおそる聞く。
「よかよ、あ、着替えなかったなあ」
「取りに行く!!」
葉月は元気に立ち上がる。
「そうか、夕飯買うついでに家まで送ってやる」
「えっ?俺もいく!!」
流星も慌てて立ち上がる。
「お前は宿題終わっとらんやろ?葉月はもう終わったけん」
修に頭をグリグリされて座らされた。
「ちぇっ!じゃあ、アイス買うけきて!ブラックモンブラン」
「ちゃんと宿題終わらせとかんば、食わせんぞ」
修は笑うと葉月を連れて家をでた。
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