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第2話
車に乗り込む前に修は葉月に庭に付き合ってと言って庭へ回る。
庭には真っ白な花が咲き誇っている。
「修さんこの花なんの花?綺麗」
葉月は白い花に顔を近付ける。
「ウツギの花たい、音楽で夏はきぬって歌習わんかったか?その歌に出てくる花たい……卯の花のにおう垣根にホトトギス……ってやつ」
修は少し歌う。すると葉月は笑顔になって「あー!音楽で習ろうた」と言った。
「兄貴に挿し木ばやろうかと思うて……流星が植木壊した代わりに」
「挿し木?それて花が増えると?」
葉月は不思議そうに首を傾げる。
「増えると!葉月にもやろうか?」
「うん!」
葉月は嬉しそうに返事をする。
「あとで葉月の母ちゃんに育て方ば教えるけん」
「ありがとう修さん」
「よかよか!いつも流星と遊んでくれてるとやけん!アイツ、やんちゃやろ?迷惑かけとらんか?」
修の質問に葉月は首をふる。
「流ちゃんだけやん!僕の名前ちゃんと呼んでくれるとは、それに僕が外人って虐められた時に流ちゃんが助けてくれた、いじめられたら俺ば呼べって」
葉月は嬉しそうに話す。
「そうやね、流星は正義感強かけん、葉月、流星とずっーと仲良くしてやってな、ああ見えて弱いとこもあったりすると」
修の言葉にえっ?という顔をした後に「うん、僕も流ちゃん守る」と答えた。
「そうかありがとうな」
修は葉月の頭を撫でた。
「それと、流星の弱点教えたとは内緒ばい?」
「えっ?弱いとこってやつ?」
「そう!男は他人に弱いとこ見せれんけんな」
「うん、秘密!!」
「秘密やね……ウツギの花の花言葉みたいやね」
「花言葉?」
葉月はキョトンとする。
「昔の外国でな花に思いば託して恋人に贈る風習があったと、花、ひとつひとつに言葉があるとぞ、ウツギの花は秘密」
「えー!!すごかあ!修さん何でも知ってるとね!先生やったっちゃろ?お母さんが修さんに習ったって言いよったもん」
葉月の母親は修の教え子でもある。
「そうか?凄かか?ばってん、これは教えてもろうたとぞ、この花ばくれた人に」
「えっ?その人恋人ね?」
「……ふふ、さあな、じゃあいくか!」
修はウツギの花を持ち葉月と一緒に車に向かった。
◆◆◆
「ただいまあ」
ドアが開く音と葉月の声。
退屈だった流星はドタバタ走って玄関へ。
「もう!遅かあ!!なんばしょったとよ!」
1人寂しくて流星は文句を言う。
「ほら、ブラックモンブラン」
修にアイスを渡されふくれっ面から笑顔に。
「ちゃんと宿題したとか?」
修はそう言いながら靴を脱ぐ。隣にいた葉月も靴を脱ぎ家へあがる。
「もちろんばい」
「後でチェックしちゃる」
「信用なかねえ……でなんで遅かったと?スーパー近いやん?」
流星はアイスの袋を開けながら聞く。
「兄貴に壊された植木の代わりば渡してきったい」
修の言葉に流星は焦る。
「もう怒っとらんっち!そいけん明日は帰れよ」
「うん、ごめんなさい」
流星は素直に謝った。
「よし、アイス食ったら風呂入れ2人とも」
修の言葉に葉月が恥ずかしそうにする。
「なん?幼稚園から入りよるやん?」
「う、うん……」
葉月は返事をしながらも何やら恥ずかしそうで「早う行こう、見たかテレビがある」とアイスくわえて葉月を引っ張り風呂場へ。
「流ちゃんアイス食べながら入ると?」
「そうばい?お風呂で食べるアイスは格別!葉月もやってみ!」
流星は自分のアイスを葉月の口に押し込み、自由になった手で服を豪快に脱いだ。
そして、スッポンポンで葉月の口からアイスを取ると「先に入っとる」と浴室へ。
葉月も慌てて服を脱ぐ。
◆◆◆
湯船に浸かりながらアイスを食べて「俺、最近鍛えよるっちゃん」と葉月に告白。
「えっ?なんで?」
「修ちゃんみたいな身体になりたいけん!修ちゃんじいちゃんと5歳しか違わんとに筋肉すごかやろ?昔は舁き手しよったって、俺もやりたいと」
「舁き手?山笠の事?」
「そう!俺まだ子供組やし、でも、来年は中学校やけん若者組になれる……前走りばってんがやっぱ舁き手やりたかもん!修さんは俺と一緒に前走りしてくれるけん楽しいけどね」
楽しそうに話す流星を見て葉月は「流ちゃん山笠好きやもんね」と言う。
「葉月もすればよかやん!楽しかよ!」
「えっ……やだ」
「なんで?」
「だっ、だってふんどし……」
そう言って葉月は赤くなる。湯船に浸かっているせいかもしれない。
「はあ?ふんどしカッコよかやん!修ちゃんのふんどし姿カッコよかばい!男の中の男って感じ」
確かに流星の言う通り、カッコイイ。葉月も去年見に行った。
水を浴びて走る修は凄くカッコ良かった。自分の祖父と比べると生き生きしていて若くてカッコ良い。
「ねえ、修さんってカッコよかやん?でも、結婚しとらっさんやろ?何で?」
子供の葉月には不思議だった。だって、大人は全員結婚しているものと思っているからだ。
「さあ?そいは知らん!モテモテやけん1人に絞れんかったんやない?」
「でも……」
そう言って葉月は俯く。
庭でウツギの花の話をした時、凄く良い顔をしていた。子供ながらの勘なのだが、きっと好きな人から貰ったんじゃないかって思う。
「なん?どーしたと?急に黙って」
流星に聞かれ、秘密!と言った言葉を思い出して「なんでもない」と誤魔化した。
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