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第8話
さて、俺はラズマとまだ会ったことはないけれど相棒のリヴィに比護される精霊というものになった。
立ち位置的にはラズマの相棒…ではなくおまけだ。
「ジーンは…その、あまり強くないので…」
そうラズマは言葉を濁していたけれど解ってるって。
俺めっちゃ弱い自信あるからさ。
おまけ万歳。
俺ってもしかしてヒモ?とかパラサイト?とかネガティブ単語がめっちゃ浮かんできたけど…それは頭から追い出した。
まあ、細かいことは気にすまい。
二人が良いといってくれているんだから暫くは甘えさせてもらおう。
で、相棒じゃないし、できること何かわからなしいで…ラズマの仕事中俺はすることがない。
ってことでふらふらと庭を散策している。
庭というかほぼ森だ。
この庭なら迷子にはならないから。
とラズマに言われたから安心して入ったけれど…
どうやったらこの庭改め森で迷子にはならないって言い切れたんだと逆にラズマを小一時間ほど問い詰めたい。
そう、俺は今絶賛迷子中だ。
木々の間から白が見えたら帰れるんだけどな。
辺りをキョロキョロ見回す。
ーーしくしく、えーん、
すると、泣いている声が聴こえてきた。
鈴の音のような不思議な音がいくつも悲しげに震えている。
傍の草むらを覗くと小さな妖精達が集まって泣いていた。
『しんじゃった』
『可哀想な子たち』
『まだ卵だったのに』
『もう産まれないなんて』
どうやら卵が孵化前に死んでしまったらしい。
よくみると妖精達があつまったその中心一帯の植物が枯れている。
『魔物の瘴気に触れたから』
『かわいそう、かわいそうな卵』
枯れた植物の中心にあるのは禍々しい黒い羽。
カラスのようなその羽は、綺麗な濡れ羽色なのに奇妙な嫌悪感を懐かせた。
ーー魔物と精霊は相成れない。
ラズマの言葉が脳裏をよきる。
うん、本当にその通りなのかもしれない。
この黒い羽を自分は根本の部分で不快だと感じるのだから。
『卵が無くなってしまった』
『かわいそう』
『悲しい』
さめざめと泣く妖精達が不憫で思わず声をかけた。
「卵ならまた産めばいいだろう、それともむずかのか?」
『もうない卵がない、女王が居ない』
よりいっそう妖精達の嘆きが深くなった。
どうやら種の存続の危機だったらしい。
女王がいないとダメだとか蜂みたいだな。
「あーっと、何か方法無いのか?誰かがメス化するとか…魚みたいに群の誰か性転換したり、何かして女王になるとか…」
そう言った俺にやつらはうーん、と唸りながら考えている。
ふわふわと浮かびながら考えに頭を傾げるとその方向に勝手に動いてしまう。あぶつかった。
ちょっとかわいい。
そのうちとある1人、一匹か?が、ぽふんと手をうった。
『そうだ、ニンフに頼むの、ニンフは花嫁だから、ニンフはみんなの花嫁になれるの』
その言葉にざつと小さな目が一斉にこっちに向いた。
「うっ!」
嫌な予感がした。
俺、確かラズマにニンフって言われてた…ような?
期待に満ちた瞳。
ひぃっ!こっちみんな。
数が恐ぇよ。
『願い事叶えてあげる』
『蜜をとどけてあげるから』
『綺麗な石は好き?』
『薬になる虫はいる?』
先程までの嘆きが嘘のように全員が口々に話しかけて来る、あれよあれよという間にどっさりと目の前に積まれていくガラクタの山。
なによりりんりんぶんぶんうるさい。
はぁ…
ふかーいため息をついた。
言い出しっぺは俺だ、これは身から出た錆というんだろうか?
ええい、男は度胸だ。
「痛いのは嫌だぞ、産んだら死んだり苗床になったりもしないよな?」
そう聞いたら全員が『そんなことしない!』と悲壮な顔で首をふった。
『ぼくらは魔物じゃないもの!』
リンリンキンキンと心外だとばかりに音がなる。
なるほど。つまり…魔物相手だと死んだり苗床になったりするのか。
本当マジで気を付けよう。
「で、俺は何をすればいい?」
卵を産むってことは交尾的なことをするんだろうか?このサイズ差で!?いや、無理だろ。
そう思いながらとりあえず目の前の一匹を手のひらに乗せて聞く。
妖精はもじもじと恥ずかしげに『えっと…あの…キス…』と呟いて
きゃーー!!と叫んで真っ赤になった顔を覆った。
あ、なんだ、キスでいいんだ。
「ん、どうぞ」
小さな妖精は目をぎゅっと閉じて俺の唇に触れたあと、恥ずかしげに唇を押さえてリンリンくるくる飛び回っている。
俺は鼻息で飛ばさないようにするのに必死だ。
他の妖精も期待に満ちた顔でこちらを見ている。
俺は諦めの境地とともに、他は?と言うと彼らはもじもじと整列し俺に一人づつキスをしていった。
キスをし終わった奴等はきゃーとか恥ずかしい~とかきゃっきゃしている。
素直な感想を言っていいだろうか。
虫が顔に当たってるようにしか思えない。
鼻息に気を付けながら無の境地で全ての妖精とキスをし終えると俺の胸がぽっと暖かくなった。
なんだろう?と思っているとその温もりは光となって俺の胸の真ん中から外に出てきた。
それを俺が掌に受け止めると周りの妖精達がわぁっ!と歓声を上げた。
『できた!』
『新しい卵だ』
どうやらこの光が卵らしい。
解せぬ。
キスで卵ができるとは(しかも卵っていうかただの光)
36歳のおっさんにはファンタジー過ぎて頭がついていかない。
一瞬でもこんな虫みたいなやつらとどうやってセックスするんだ?とか思った俺はとんでもなく汚れた大人だったようだ。
「元気に育てよ」
ダメな自分を誤魔化すように光の塊に話しかけたあと、光をそっと彼等に差し出す。
すると妖精一匹一匹がそれぞれがひとつづつ光の塊から小さな光を取り出していった。なるほど、自分の卵があるのか。
最後に俺の掌には一回り小さくなった光の塊が残った。
それをどうすればいいのか悩んでいると蔦で編んだ揺りかごのようなものを何匹かで一緒になって運んできた。
揺りかごの中にはふんわりした綿毛が敷かれている。
俺はそつとそこに光の塊を移した。
きっとこの卵が女王になるんだろう。
『ありがとう』
『ありがとう』
『嬉しい』
礼をいう声ががりんりんと涼やかにきこえてくる。
「お礼ついでに俺を出口まで連れていってくれよ」
頼むと承諾するように彼らが一斉にりいん!と鳴いたかと思うと…目映く光り、眩しさに閉じたら目を開くと…俺は森の出口に立っていた。
手のひらと服のポケットには大量の、ガラクタ…
どうやらこれはお礼のつもりらしい。
知らぬ間に手に持っていた大根みたいなものには叫んでいるような顔がついていた。
「マンドラゴラ…?」
なんか…
うん、マジでファンタジーだな。
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