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第8話 降ったり止んだり
「お帰りのんちゃん!また雨降ってきたけど濡れなかった?屋上にいたんでしょ?」
「あ、うん……濡れてないよ」
教室に帰って窓の外を見ると、本当にまた今朝のような大雨が降りだしていた。気付かなかった……。これって朝比奈先輩がいなくなったから?まさかね。
「どうしたの?なんか元気ないね。早速朝比奈先輩になんかされた?」
「ううん」
「なあんだ。朝比奈先輩ってウルトラスーパー手が早そうだと思ったけど、意外と紳士なんだねぇ」
「……」
すずのその読みは決して間違っていない。
……さっき迫られた時はつい嫌がっちゃったけど、やっぱりキスしておけばよかった。
だってオレが男だってことがバレるのは時間の問題だろう。
そしたらもうオレは、朝比奈先輩の彼女じゃなくなる。
あんな軽い口約束、最初はオレの方が本気にしていなかったのに……!
「ちょ、のんちゃん!?」
「え?」
「やっぱりどっか悪いんだね!?保健室行こう、保健室!!鈴木君、ぼくとのんちゃん次の授業出ないからよろしく――!!」
すずがめちゃくちゃ焦った顔をしてオレの手を引っ掴み、急いで教室を出た。
今気が付いたけど、オレ、泣いてるじゃん。
足早に保健室に向かいながら、すずがオレに訊いてきた。
「のんちゃん、マジで昼休みに何があったの?本当は朝比奈先輩にナンかされたんでしょ!?ぼくが文句言ってきてあげるから話してよ!」
「ちが、違うよすず、朝比奈先輩はすごく優しかった……オレ、好きになっちゃったんだ」
「へ?」
すずの足がピタッと止まり、手を引かれていたオレも止まった。
ちょうど保健室のドアの前だ。
「好きに、なっちゃったんだ……朝比奈先輩のこと、オレ……」
「えっ待って待ってどういう心境の変化なの?いやもちろんぼくは親友として応援するけど正直のんちゃんの方から好きになるなんて全然まったく毛ほども思ってなくていやいつかは絆されるだろうなーとは思っていたけどこんな急にとはいや待って本当に待って」
「でもオレ、朝比奈先輩に本当は男なんですってまた言えなかった!」
「え?」
再びぶわっと目の奥から涙が溢れてきて、同時に今の気持ちもぶちまけた。
「朝比奈先輩、オレのこと女の子だって思ってるから付き合ってくれてるのに、男だって分かったらフラれちゃうよ!どうしようすず……オレ、本気で好きになったのに、いまさら朝比奈先輩に嫌われるの、やだよぉ!」
「の、のんちゃん……」
廊下の窓越しに、ざあざあと激しく雨の降る音が聴こえる。
それはまるで、今のオレの心みたいだ――……。
《ガラッ》
「知ってたけど」
「え?」
突然保健室のドアが開いて、何故かその中からさっき別れたばかりの朝比奈先輩がひょっこりと顔を出していた。
「いや、ノンタンが男だってハナシだろ?俺、最初から知ってたけど。会ったとき半裸に剥かれてたしなァ」
朝比奈先輩は首の辺りをボリボリと掻きながら、こともなげに言った。
「えっ……でも、ずっとオレのこと彼女って……お友達にも……」
「んー、口癖みたいなモン?俺バイだからどっちとも付き合えるし、タチだし、だから恋人のことはみんな彼女って言ってるぜ☆」
「そ、そうですか……ところで朝比奈先輩はどうしてここにイルンデスカ?」
「サボり☆」
そんな堂々とサボり宣言を……ていうかちょっと待って、色々ツッコミたいところはあるけど、とりあえずさっきのオレの話、全部聞かれてたってこと……!?
「良かったね、のんちゃん!告白する手間が省けたよ!」
「ノンタン、俺もすげぇ好きだぞ!顔も可愛いけど性格も可愛いんだな!最高!」
「あっ……あの……ちょっと考えさせてもらってもいいですか……」
「何を?」
「いや、今後のお付き合いを……」
「何でぇ!?」
あまりの恥ずかしさに遠い目をして窓の外を見たら、やはり雨は止んでいた。
Mr.晴れ男センパイ!【終】
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